「ガラパゴス産業は強い」「失敗を称賛せよ」日本がノーベル賞大国であるために何が必要か 英名門大の日本人研究者が提言する日本の強みと課題

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 研究費や人材、ポストの不足などによって、日本の研究力への悲観論は根強く横たわる一方で、2025年は日本人から2人もノーベル賞受賞者が出るという朗報に沸いた。この快挙は“単発の花火”で終わるのか、それとも「ノーベル賞大国」としての日本を世界へ示す道筋となりうるか。世界トップ大学の研究者でありながら、製薬スタートアップの経営者としての顔も持つ、インペリアルカレッジ・ロンドン准教授の石原純氏(免疫工学)が、2026年の日本に提言を送る。

 2025年、日本からお二方のノーベル賞受賞者が輩出されたというニュースは、ロンドンの研究室にいる私の元にも明るい話題として届きました。私は、日本人は研究者として世界トップの実力を持っていると思っています。研究への情熱や空想力において、絶対に欧米人に負けません。ではなぜ、日本で将来の研究力への悲観論が巻き起こっているのでしょうか。

研究にあてられる時間は「30%以下」

 悲観論が巻き起こっている理由は2つあります。

 1つ目は、研究力の指標となる「トップ10%論文」の減少です。2023年発表の文科省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査によると、自然科学分野で引用回数が世界のトップ10%に入る質の高い論文の数は、日本は世界13位に後退し、韓国やイランの後塵を拝している状況が報じられています。

 2つ目は、研究者になりたい若者が減っているからです。経済的に割に合わない、キャリアが不安定になるといった理由から、公営の研究機関の研究者数が減少しており、2002年と比べると38.0%減となっています。

 こうした日本の研究環境が抱える主な問題点は、システムの不備と少ない研究時間です。研究者としての評価に全くつながらない事務手続き、講習、研究費の精算、入試業務、授業の準備などに時間が割かれ、大学にいる研究者は30%以下の時間しか研究ができていないそうです。どんなスーパー研究者も時間がなければ研究などできません。

 私が身を置く英国では、これらは専門スタッフが行うか、領収書は写真をアップロードするだけで精算ができるので、研究者は研究に集中できます。多少のミスがあっても後で直せばいいという大らかさがあります。

「ガラパゴス」を目指していい

 では日本人にはどういう強みがあるのでしょうか。

 日本は「ガラパゴス産業」と言って、日本にしかないものを自嘲気味に語ることがあります。しかし逆にガラパゴス化するのは研究という視点ではとても重要なことで、欧米の後追いをしないでも新しい創造的なものを創れることを意味します。

 ガラケーや温水洗浄便座のような技術だけでなく、エンタメ産業ではカラオケボックス、漫画、コンセプトカフェ、温泉旅館など、他国には絶対に真似できない日本独自の文化と収益構造を勇気を持って創り上げる国民性があるのです。これらは輸出できないかもしれないですが、研究においてはガラパゴスを目指していいのです。

 日本の強みとして、皆がドラえもんや鉄腕アトムなどの漫画を見て、ある程度幼い頃から空想的な創造性が身についていることもあります。「あんなこといいな、できたらいいな」と問題を解決する道具の存在を日本人ならほとんどが考えたことがあるのです。これは絶対に欧米に真似できません。

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