「ガラパゴス産業は強い」「失敗を称賛せよ」日本がノーベル賞大国であるために何が必要か 英名門大の日本人研究者が提言する日本の強みと課題

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ハードワークの美徳

 さらに、日本にはハードワークの文化があります。欧米人はワークライフバランスと言って早く帰ったりするのにも関わらず、日本人よりも高い給料を稼ぎます。つまりは、研究費を使う際に、日本なら2人雇えるのにも関わらず、同じお金で欧米の主要都市なら1人しか雇えません。

 私はドラゴンボールやスラムダンクを見て育ちましたが、日本のアニメは修行や練習するシーンをしっかり描き、ハードワークをすることが成功への道であることをはっきりと子供に教えています。一方で、欧米のアニメはスーパーヒーローのような特別な能力を持つ人間が悪と戦う話になっている場合が多く、修行の重要さが伝わっていません。これらの日本人特有の「頑張る文化」を絶対に捨ててはいけないし、給料が高いのにあまり働かない欧米人に日本人が負けるわけがないのです。特に同じお金で2人日本人が雇えるとすれば尚更です。もちろん、研究者への待遇という面ではまた別の議論が必要ですが、少なくとも日本人が持つ気質が優れていることは、海外に身を置いていると強く感じさせられます。

 研究に当てはめると、欧米と同じやり方をするのではなく、本当に重要なこと、ドラえもんが道具にしそうな夢のような技術を作ることに熱心になればいいと思います。欧米に負けているのは、欧米の土俵で評価したり、欧米の真似をしようとするからなのです。

 では、具体的に日本が欧米に負けているのはどのような点なのでしょうか。

「死の谷」を越えるエコシステムの欠如

 私は大学の研究者であると同時に、自身の研究成果を社会に届けるために起業した経営者でもあります。海外で2社、日本で2社のスタートアップを経営していますが、この「事業環境」の面で、日本と欧米の差は深刻です。

 ライフサイエンスやディープテックと呼ばれる分野は、基礎研究から製品化までに長い年月と莫大な資金を要します。英国や米国には、この「死の谷」を越えるためのリスクマネーと、科学技術を理解する投資家(VC)のエコシステムが存在します。「失敗しても、それが次の挑戦への勲章になる」という文化があるため、研究者は恐れずに起業し、投資家も長期的視点で伴走します。

 一方、日本のスタートアップ環境は改善されつつあるものの、依然として「失敗への不寛容」が根強く残っています。アカデミアと産業界の壁も厚く、一度大学を出て起業すると戻りづらいキャリアパスの硬直性も、挑戦を阻む要因の一つです。英米のように、大学とスタートアップを行き来する「回転ドア(リボルビングドア)」が機能しなければ、知の社会実装は加速しません。

 実際、日本の研究機関での就職活動で、私は「金儲けしたいなら企業へ行け」と面接で言われました。研究成果を社会に還元するという行為が評価されない文化がある限り、科学技術の社会的インパクトは限定的です。もしもモデルナやGoogleのような世界にインパクトを与える会社が日本の大学発だったら、日本の大学は莫大な富を得て、上記の研究環境の問題は解決していたはずです。

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