「片岡千恵蔵の殺陣は刀で相手を本当に叩く」「最初は死体役」 殺陣師・斬られ役のレジェンド4人が語った「昭和の時代劇」驚愕の撮影現場【追悼・菅原俊夫氏】
立ち回りが無くても、所作だけで差が出る
〈斬られ役として名を馳せ、ハリウッド映画「ラストサムライ」にも出演した福本さんだが、そんな「技」を活かす機会も減っている〉
福本:僕の場合、出演1日8000円、立ち回りしたら3000円加算で1万1000円。それでも高いと言って、経験の浅い連中を5000円位で使う現場も多い。だけど、立ち回りが無くても、所作だけで差は出てくる。
たとえば、三池崇史監督の「一命」(2011年)で、ラストの立ち回りに入る前に何十人もの侍が抜刀して主人公を囲むシーンがある。それが全く様になってないんですよ。あんまり様にならないからか、途中から東映剣会に声がかかったんですが……かつては、市川右太衛門さんとか片岡千恵蔵さんのような御大が、剣会の出番が終わるのを待っていてくれたものです。
菅原:結局、剣会が斬られ役にならないと、主役も気持ちよく斬れないんですよ。
福本:でも、まさかテレビから時代劇がなくなるなんて思いもしなかったな。
上野:一時期、1週間に十何本もあったからな。
〈だが、そんなテレビ時代劇にも、一筋の光明が〉
笹木:これはまだ、“点”みたいなものですが……以前、テレビ東京で「逃亡者おりん」というシリーズがありました。そのプロデューサーが東映剣会をとても買ってくださっていて、主役と準主役を除いてゲストも剣会の連中ばかりで、その続編を作ることになったんです。1月12日にスペシャル版を放送して、その後、深夜枠ですが17日から30分ものを11本放送します。先日、第2話の試写を見たんですが、すごく良くできていた。こういうのが俺らの夢だったんです。
福本:その夢に、みんな賭けているんですよ。
(以上、「週刊新潮」2012年1月5・12日号「『時代劇』の絶滅危機に『斬られ役』『殺陣師』座談会」より)
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日本に宿る“チャンバラ好き”の心
笹木氏が言及した「逃亡者おりん」は、残念ながら続編以降の展開がなかった。一方で日本刀を使った殺陣はテレビ以外の場所で変容していく。映画ではアクション監督によるワイヤーを使った大掛かりなシーンなどが好評を博し、舞台では激しい立ち回りを演じる2.5次元作品なども若い世代に受け入れられた。
こうした“多様化”には賛否両論あるが、日本刀を使った殺陣に魅入られる観客が消えていなかった証明でもある。日本の観客の中に脈々と存在する“チャンバラ好き”の心。その土台を作った1つはやはり、昭和のテレビ時代劇だろう。
2024年に大ヒットした映画「侍タイムスリッパ―」は、そんな“チャンバラ好き”の心に響く、テレビ時代劇への賛歌でもあった。ドラマ「SHOGUN 将軍」もまた、時代劇の撮影現場で技とキャリアを磨いた真田広之のこだわりが随所に光っている。この2作品に対し、京都太秦の東映京都撮影所が積極的に協力した事実も大きな話題を呼んだ。
原点であるテレビ時代劇とはどういうものだったのか? 第1回【「水戸黄門」「大岡越前」はなぜ“基本的に人の命を奪わない”のか 殺陣師・斬られ役のレジェンド4人が語った「テレビ時代劇」秘話】では、「水戸黄門」が“偉大なるマンネリ”になった理由などが明かされている。
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