高倉健、倍賞千恵子、渥美清、佐久間良子…男と女、出会いと別れ、古き昭和が心に染みる年末年始の映画4選【冬の映画案内】
賑やかなクリスマスが終わり、新年まで数日間でふと覚えるもの悲しさ。去りゆく年に馳せる思いとは、年ごとに大きくなっていくものかもしれない。年末年始が登場する日本映画は、そんな微妙な思いを静かに揺らす名作ぞろいだ。寒い夜にじっくりと見入りたい4本を、映画解説者の稲森浩介氏が紹介する。
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大晦日は「舟唄」を聴きながら
〇「駅 STATION」(1981年)
北海道の厳冬と盛夏を背景に、警察官でオリンピック射撃選手である三上英次(高倉健)と、3人の女性たちの出会いと別れをそれぞれ描く。
「1968年1月直子」:雪の降りしきる銭函駅のホームで、英次は妻・直子(いしだあゆみ)と息子に別れを告げる。直子は列車のデッキから泣きながら笑顔で敬礼をする。別れの理由は直子の兄が「1回の過ちじゃねえか。忘れてやるわけにはいかないのか」と言うだけで、詳しくは語られない。
今年3月にいしだが亡くなった時、何度もこのシーンが流された。それほど印象に残る場面だが、いしだの登場場面はここだけだ。だが、英次と直子が最後に再会するシーンを撮っていたという。それを降旗康男監督は編集段階ですべてカットし、英次が夜行列車で1人去っていくところで終わらせた(『高倉健メモリーズ』キネマ旬報社)。いしだはこの作品で、日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受賞している。どちらが良かったのか、答えは明白であろう。
「1976年6月すず子」:英次は通り魔事件を追っていた。容疑者の妹・吉松すず子(烏丸せつこ)は、増毛駅前の食堂で働いている。すず子を尾行する英次は、しだいに彼女の悲しい運命に関わっていく。
烏丸は前年にクラリオン・ガールに選ばれた後、映画「四季・奈津子」で奔放な役を演じて鮮烈なデビューをしていた。烏丸の演技を、降旗監督も高倉も絶賛したという。
2人で観る「紅白歌合戦」
「1979年12月桐子」:英次は立ち寄った増毛の居酒屋で、店主の桐子(倍賞千恵子)と心を通わせていく。大晦日に2人は留萌へ映画を観に行き、その後、結ばれた。「わたし、大きな声を出さなかった?」と桐子に聞かれ英次は否定するが、心の中で「樺太まで聞こえるかと思ったぜ」と呟く。
このユーモラスなセリフを高倉は、「こんなの言っていいんですかね。無しですよね」と告げていた。降旗監督は「健さんが思っているようにはなりませんよ」と説得したという(『高倉健 Ken Takakura 1956-2014』文春文庫)。
この後、2人は桐子の店で「紅白歌合戦」を観ながら酒を飲む。やがて大トリの八代亜紀が「舟唄」を歌い始めると、桐子は「わたしこの唄好き」と言って英次の胸に背を預け口ずさむ。英次は肩を抱いてやる。〈女は無口なほうがいい〉の箇所で、英次を振り返って「わたし(のこと)」とあまえるようにアピールする。
カメラが2人を斜め下から捉えると、ストーブの上にやかん、カウンター越しに熱燗用のチロリから上る湯気が見える。奥には小上がり、柱には注連飾り。こんな居酒屋で大晦日を過ごしてみたいと思わせる、胸に染み入るような場面だ。しかしこの後、物語は大きく動き、2人の関係は暗転する。
2年前に亡くなった八代は、21歳の頃「高倉健ショー」で前座を務めていたという(『高倉健メモリーズ』)。「舟唄」と共に心にいつまでも残る作品だ。
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