高倉健、倍賞千恵子、渥美清、佐久間良子…男と女、出会いと別れ、古き昭和が心に染みる年末年始の映画4選【冬の映画案内】

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伊勢神宮の新年

〇「喜劇 初詣列車」(1968年)

「男はつらいよ」が始まる前から渥美清の喜劇役者としての才能は飛び抜けていて、列車車掌を演じる「東映列車シリーズ」も大ヒットした。本作はその第3作となる。

 上田新作(渥美清)は、国鉄の長距離列車の車掌だ。ある日乗務中に、憧れていた幼馴染の坂本美和子(佐久間良子)と再会し、生活のために芸者となり、行方不明の弟・研吉(小松政夫)を探していることを聞かされる。美和子のために研吉探しに奔走する新作を、妻の幸江(中村玉緒)が浮気と誤解してしまい、事態は思わぬ騒動へと発展する。

 多くのスキー客で溢れている上野駅の様子が、細かく描かれている。ひどく混雑した車内で検札する新作が、客から「おい車掌、弁当買ってこい」と言われるのには驚いた。当時はよくあったことなのだろうか。

「寅さんの原点」か

 シリーズを通してマドンナ役は佐久間が務める。新作がいつも失恋するのは「男はつらいよ」の寅さんと同じだが、違うのは妻がいることだ。今作では中村が演じていて、新作に「この顔なら浮気の心配はないと思っていたのに」と言うのがおかしい。中村を明石家さんまの番組でしか知らない人もいると思うが、とてもきれいな女優だった。最近介護施設に入ったという報道があったが、また元気な姿を見せてほしい。

 一方、佐久間はこの頃の東映の、ヤクザ映画路線に悩んでいた。「五番町夕霧楼」(1963年)などで、その演技力に高い評価を得ていただけに忸怩たる思いがあったようだ。結局、好評だったこのシリーズも3作で終了してしまう。

 さて初詣である。すべてが収まったあと、新作夫婦は伊勢神宮を訪れる。とても混雑していて、女性のほとんどが着物姿なのは今と違うところだ。途中、新作はテレビインタビューをされるが、それを着物姿の美和子が置き屋でじっと観ている。背後では襷掛けの芸者たちが、新年の準備をしている。

 このあたりも「男はつらいよ」と設定が似ている。寅さんの原点はここにあったのかもしれない。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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