高倉健、倍賞千恵子、渥美清、佐久間良子…男と女、出会いと別れ、古き昭和が心に染みる年末年始の映画4選【冬の映画案内】

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寅さんのいないお正月

〇「男はつらいよ フーテンの寅」(1970年)

 全50作の映画「男はつらいよ」シリーズは年末年始に公開されることが多く、この時期の風物詩でもあった。寅さんは毎回失恋して旅に出てしまうので、生まれ故郷である葛飾柴又のお食事処・草団子屋「とらや」で正月を迎えることはない。しかし今作は珍しい“正月の寅さん”の姿が見られる。

 森崎東が監督を務める第3作。久しぶりに帰ってきた車寅次郎(渥美清)はお見合いをするが、叔父のおいちゃん(森川信)と揉めて旅に出ることに。落ち着いた先は、三重県の湯の山温泉。ここの女将・お志津(新珠三千代)に惚れた寅次郎は、番頭として働く。しかし、お志津には再婚を考えている相手がいて、またしても失恋して旅に出る。

 新珠三千代はこの時期に始まったドラマ「細うで繁盛記」(1970年~1974年)でも、温泉女将を演じ大きな話題となった。

どこか寂しさを感じさせるラスト

 終盤、葛飾柴又の年末風景が映される。商店の大晦日は正月客用の準備で忙しい。「とらや」でもようやく慌ただしさが一段落して、年越し蕎麦を食べ始めた。やがてテレビからは「あけましておめでとうございます。1970年がやってまいりました」の声が聞こえてくる。

 おいちゃんは頭の手拭いを取り、寅さんの妹・さくら(倍賞千恵子)は割烹着を脱ぎ、皆で新年の挨拶を交わす。しかし、そこに寅さんの姿はない。

「寅さんどうしているだろうね」と皆で心配していると、さくらが「あらっ、お兄ちゃんじゃないかしら」と言う。テレビで鹿児島県の霧島神宮が中継されていて、寅さんがインタビューされているのだ。「お子さんは?」と聞かれると「3人になるかな。俺に似て可愛いよ!」。インタビュアーは「子供さんはこの画面を通じて、お父さんの姿を見ているかもしれないですね」と。

 それを聞いたおいちゃんが「何が子供だい、そんなもんはどこにいるんだ。バカだよ、あいつはほんとにバカだよ」とお決まりのセリフを言って涙ぐむ。さくらも画面を見ながら泣いている。

 映画は初荷のぼりを上げる舟に乗った寅さんが、客に威勢のいい口上を述べている、どこか寂しく感じさせるシーンで終わる。これから何処へ行くのだろうか。

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