大分「佐賀関火災」でわかった異常な空き家率 放置すれば十数年後に日本中がスラム化する
13年後には日本の家屋の3分の1が空き家に?
11月18日に発生した大分市の海に面した集落、佐賀関の火災。焼けたのは住宅など187棟におよび、焼損範囲は山林の一部も含めて4万8,900平方メートルに達したという。この火災で浮き彫りになったのは、地域の激しい高齢化で、佐賀関の場合、火災が発生した時点での高齢化率は58.2%だったという。
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それが幸いした面もあった。昔ながらの近所のつながりが残っていたために、火災の発生時に住民同士が声をかけ合い、多くの高齢者の命が救われたことだ。火災は大規模化したが、命を落としたのは1人だった。
一方、進行中の高齢社会を象徴する危険な事実も判明した。しかも、同様の問題はこれから全国に波及し、さらに加速して進むに違いないと思われる。空き家率の高さである。人口7,000人弱の佐賀関に、火災発生時点で561軒もの空き家があったという。被災した建物も4割を超える70棟以上が空き家で、このため延焼しやすかったとされる。
これを他人事ととらえてはいけない。日本の空き家率は現在、少子高齢化による人口減少を背景に増加の一途をたどっている。総務省が2024年9月に発表した2023年の住宅・土地統計調査(確報集計)によると、全国の空き家は総家屋数の13.8%を占める900万2,000戸。2018年には約849万戸だったので、5年で51万戸も増えた。30年前の1993年とくらべれば2倍である。
周知のとおり、少子化の勢いが止まる様子はまったくない。厚生労働省によると、2024年の国内の出生数は68万6,061人で、1899年に統計を取るようになってはじめて70万人を割った。2016年に100万人の大台を下回って衝撃的に受け止められたが、それから8年でさらに3割も減ってしまった。結果として、総務省による2025年1月1日時点の人口動態調査で、日本人の人口は1億2,065万3,227人と、前年より90万8,574人減少。減少数、減少率とも1968年の調査開始以来、最大となった。
野村総合研究所が2023年に発表した推計では、今後、空き家の取り壊しが進まない場合は、2038年に全国の空き家は2,303万戸に達する。これは総家屋数の31.5%にあたる。つまり、日本に建っている家の3分の1が空き家になってしまうということだ。一般に空き家率が3割を超えると、地域の治安が急激に悪化し、地域全体がスラム化するといわれている。野村総研の試算どおりに進めば、近い将来、日本全体がスラム化する危険性に見舞われることになる。
新築住宅をつくりすぎた
もっとも、すべての空き家を危険視するわけではない。賃貸用、売却用の物件が一時的に空き家になっているものも「空き家」として集計されている。別荘等の二次的住宅もそこに含まれる。
問題なのはそのほかの、使用目的がない空き家、いわゆる「放置空き家」である。これが前述の総務省による調査で、空き家全体の約4割の385万戸に達し、5年前にくらべて37万戸、すなわち1割も増加した。5年間で増えた空き家は既述のように51万戸だから、増加分の7割は放置空き家ということになる。ちなみに大分市佐賀関の空き家は、大半が放置空き家だったと思われる。
ここで立ち止まって考えてみたい。なぜ空き家がこれほど増えてしまったのか。その背景には前述のように、少子高齢化による人口減少があるが、より根本的な問題は、新築住宅をつくりすぎてしまったことにある。
人口の増加が続いた1970年代までならともかく、70年代後半から少子化の兆候が現れ、その後、明らかに人口減少時代が見通せる状況になっても、日本では新築住宅を建設する勢いが衰えなかった。
国土交通省の令和6年度住宅経済関連データによると、2023年度の新設住宅着工戸数は、持家系が45.5万戸、借家系が34.6万戸で、合計した総戸数は80万戸。2004年度の持家系71.6万戸、借家系47.7万戸、総戸数119.3万戸にくらべれば減少したものの、相変わらず高水準であるには違いない。人口が減少し、空き家が急増しているのに、年間80万戸も新築住宅がつくられているのだから、空き家は増え続けざるをえない。
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