大分「佐賀関火災」でわかった異常な空き家率 放置すれば十数年後に日本中がスラム化する

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サステナビリティと正反対

 欧米にくらべると、日本の状況がいかにいびつであるか気づかされる。とくにヨーロッパ諸国の多くが、今後10年間の住宅需要や住宅建設見込みを推計し、それをもとに住宅政策を決めている。一方、日本はそうした推計など一切ないまま、業者または個人がつくりたいだけ新築住宅を量産しており、それがいまも毎年80万から90万戸という数字になっている。

 戦前の日本は借家住まいが標準で、東京や大阪では持ち家率は1割前後だった。ところが戦後の高度成長期、豊かさの指標のひとつとして持家信仰が生まれ、人々のマイホームへの欲求を背景に、住宅建設が景気浮揚策に組み入れられた。それが今日にいたっても、すなわち人口が減少して空き家が急増する状況になっても、見直されないままでいる。

 しかし、そのために日本はいま、スラム化へとまっしぐらの様相なのである。「サスティナビリティ(持続可能性)」という言葉がはやっているが、空き家が急増する状況下で新築住宅を量産することほど、サスティナビリティに反することもあるまい。

 現在、2015年に施行され23年に改正された空き家対策特別措置法により、危険な空き家や衛生上有害な空き家は、行政が解体して所有者に費用を請求する行政代執行も可能になった。とはいえ、それを行うためのハードルは非常に高いと指摘されている。結果として空き家が放置されれば、地域が治安上も防災上も高いリスクを背負うことになる。一方、行政が税金を使って壊すことになれば、自治体の財政が圧迫される。

 解体のしやすさという面で、木造家屋はまだいい。今後、所有者の高齢化とともに徐々に住人がいなくなるマンションが、全国に急増すると思われる。修繕費用や解体費用を集めることもできずにスラム化する危険性は非常に高く、それらを行政が解体するとなれば、自治体の財政への負担は木造家屋の比ではない。

日本全国のスラム化を防ぐために

 高市早苗総理は人口減少を食い止めるための司令塔として「人口戦略本部」を設置し、その初会合で「日本最大の問題は人口減少だ」と強調した。たしかに、人口減少は食い止められるなら食い止めてほしいが、これまでの経過をみれば、なにを講じたところで人口は減っていく。したがって、少子化を止める対策を放棄してはいけないが、人口が急減するという現実を直視しないと、手遅れになってしまうことが多すぎる。

 そのひとつが空き家問題であるのはまちがいない。放置すれば日本中がスラム化し、放置せずに取り壊し続けても、各地の自治体が多大な負担を背負って、住民が行政サービスの低下を強いられる。

 では、どうすればいいか。具体案を示す紙幅はないが、まずは新築住宅の供給数が大幅に減るように、政府が先頭に立って誘導すべきである。ヨーロッパのように、住宅需要や住宅建設の見込みにもとづいて住宅政策を決めることは必須だろう。そのうえで、これまであたらしい住宅地に新築住宅を買い求めていた人たちを、既存の住宅地に導くための施策が必要だろう。ディベロッパーや建設会社は、既存のエリアを魅力的にするための投資をしてほしいが、それには政府が舵を切る必要がある。

 そして、ディベロッパーがこれ以上、住宅地を拡大したり巨大なマンションを建てたりすることがないように導き、住宅に関してはすべて既存の開発エリアのなかで完結させ、そのエリアも将来的には縮小していく――。そんな青写真を描くことだろう。

 異論もあるかもしれない。しかし、そうしなければ、日本の全国的なスラム化は免れえない。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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