新幹線で絶えない外国人観光客の「スーツケース」トラブルは解消されるか…JR東海が打ち出した「3つの対策」予想以上の効果とは
スーツケースは世界的な問題
滑り出しは順調で、大阪などへのサービス拡大も検討しているという。
「他にも新幹線に乗る際に守ってほしいマナーに関する啓発活動にも力を入れています。弊社のホームページに8カ国語で説明文を掲載しているほか、駅や車内、外国人観光客のための鉄道パス『JAPAN RAIL PASS』の特設ページなどで手荷物のルールなどについて解説を行っています」(同・JR東海)
ネット上では「スーツケースは荷物棚(網棚)に置け」という意見も多い。最近の東海道新幹線を利用した方はご存知だろうが、体格の大きな外国人観光客が、巨大なスーツケースを簡単に持ち上げて棚に置く光景は珍しくない。
ただし「上げられても下ろせない」と躊躇する外国人観光客もいる。大きなスーツケースが棚からはみ出していることも目立つ。危険だと不安になる乗客もいるだろう。一方、新幹線の低振動は精密機械の輸送に使われているほどだ。さらに安全のため棚は通路側が高く、窓側が低く、と傾斜している。相当な大きさのスーツケースでも落下する可能性は低いと考えられる。
スーツケースは荷物棚に置くべきか否か──JR東海は「手回り品は原則として、荷物棚などへの収納をお願いしております。お客様が安心して快適にご利用いただくためにも、特大荷物をお持ちの場合は、荷物棚に収納せず、必ず事前に特大荷物スペースつき座席をご予約のうえ、ご乗車いただきますようお願いいたします」と答える。
未来の新幹線は?
やはり超大型のスーツケースとなると棚に置くことは推奨していないそうだ。
鉄道に詳しいジャーナリストの河嶌太郎氏は「率直に言って、スーツケースの進化に世界各国の鉄道が追いついていないのが現状ではないでしょうか」と言う。
「例えば19世紀なら、富裕層は旅行する際に大量の手荷物をお抱えの運転手やポーターなどに運ばせていました。彼らが乗った豪華客船や豪華列車には手荷物を預かる充分なスペースがあり、ポーターが積み込みや積み下ろしに従事する時間的余裕もありました。しかし20世紀に入り、高速列車が大量の乗客を迅速に輸送することが社会的使命となります。この頃にトラブルが少なかったのは、当時の乗客は手荷物が今ほど多くなかったからでしょう。当時旅行や出張に持っていく大きな荷物はせいぜいボストンバッグくらいでした」
河嶌氏が重視するのは、キャスター付きスーツケースが1970年代に登場した「新しい旅行用カバン」という点だ。
「スーツケースにキャスターが付いたことで、体力に自信のない人でも大量の荷物を簡単に運べるようになりました。現在の状況が発生した背景には、LCC(格安航空)の発達や世界的な中産階級の増加などにより海外旅行が大衆化し、世界各国の観光客が大量のスーツケースを持って他国の観光地へ向かえるようになった点があります。海外から日本に来る飛行機は預け入れ荷物で対応できますが、その先の新幹線などの鉄道でネックになってしまいます。実はヨーロッパ各国の高速鉄道でも車内のスーツケース置き場の問題が起きており、日本と共通する課題を抱えています。鉄道の場合、運行会社が問題を把握しても車両の改良には数年かかる特殊な事情もあり、今すぐ抜本的な解決は難しいでしょう。現在のような状況が今後も続くとすれば、未来の新幹線車両は荷物棚などの拡充がポイントになってくると思います」(同・河嶌氏)
[4/4ページ]

