味噌汁にソーセージを入れたっていいじゃないか 「じゃあ、あんたが作ってみろよ」ヒットの背景にある「家庭料理問題」
秋のドラマで最も話題を集めた一作が「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS系)だろう。夏帆、竹内涼真らの演技や脚本、演出の妙が魅力的だったからなのは言うまでもないが、加えて「家庭料理の面倒くささ」という普遍的なテーマが含まれていた点も人気に大いに貢献したのではないだろうか。
「家庭料理は女性が作るべし、そして家庭料理はかくあるべし」――そんな勝手な思い込みが作中の人間関係を動かす大きな要因となっていた。
もっとも、こうした思い込みをするのは男性に限らない。たとえば昔ながらの「一汁三菜」という考えに縛られてしまい、献立に四苦八苦する人は少なくないのだ。
そんな人たちに、「もっと楽に考えてみては」とアドバイスを送り続け、多大な支持を得てきたのが、料理研究家の土井善晴さん。
長年、和食の基本は「一汁三菜」だと言われてきた。そのため、味噌汁など汁物に加えて三つはオカズを用意しなければ、と強いプレッシャーを感じてきた人が多くいた。
そこに和食にもフランス料理にも精通した「一汁一菜でよい」と言ってくれたのが土井さんだった。しかも、レシピなんか厳密に守る必要はないという。何なら味噌汁にソーセージを入れたっていいのだ、と。
キッチンに立つ多くの人が「目からウロコ」「気が楽になった」と口にした、土井さんの提言とはいかなりものか。著書『一汁一菜でよいと至るまで』でわかりやすく解説してくれているところを引用してみよう。
ソーセージや唐揚げを入れてもよい
一汁一菜とは「汁飯香」、味噌汁とご飯と香の物(漬物)を言います。
とりあえず、ご飯を炊いて、具のたくさん入った味噌汁さえ作れば、食事になるのです。味噌汁を具だくさんにすることで、おかずの一品を兼ねます。
野菜に油揚げや少しの肉を入れて具だくさんにすることで、栄養的にも問題ありません。一日三食、毎日一汁一菜だっていいのです。
足らないという人はおかわりしてください。一汁一菜は飽きるどころか、いつも「おいしいなぁ」って言えるはずです。
それは、人間が味付けしたものが何もないから。
和食の原点である一汁一菜は自然の摂理の中にあって、山や花といった自然の風景に見飽きることがないのと同じです。
ただし、「味噌汁には何を入れてもいいのです」と伝えても、適当に考えてできる人は案外少ないと気づきました。私たちは、自分で発想してなにかを創ることが苦手になっているのかもしれません。それほど「こうでなくてはいけない」と信じ込まされてきたのかもしれません。
豆腐やわかめ、大根に油揚げ、じゃがいもと玉ねぎ、といった、おおよそお決まりの味噌汁しか作っていなかったのです。これまで食べ慣れてきたもの以外の食材を入れるのはタブーでしょうか。
トマトやピーマンを味噌汁の具にすることも、ソーセージや残り物のおかずのから唐揚げを具にすることも、そのたびに驚かれました。
毎度「こんな具材を入れてもいいんですか」と確認されます。味噌汁に入れたくないものはあっても、味噌汁に入れていけないものなんてありません。
それが味噌汁のすごさです。
味噌汁は万能
私も日々、味噌や味噌汁の万能性には驚いています。
具だくさんにすれば、それぞれの具からうまみ(水溶液)が出ますから、だし汁は必ずしもいりません。
でも、だし汁がないと味噌汁は作れない、と思い込んでいる人は多くいます。
酒造りの杜氏は、手弁当に鉄瓶で沸かした湯に味噌を溶いただけの味噌汁を好みます。仕事柄、混ぜものを嫌うからでしょう。
湯に味噌を溶けば味噌汁、醤油を溶けば醤油汁。こんなに豊かになる前は、茶に味噌を溶いた味噌茶を気骨に効くと飲んでいたほどです。
焼き飯は強火が基本だとか、材料は切りそろえなければならないとか、豆は煮崩れてはいけないとか、私たちは何かに縛られてお料理をしてきたようです。
そうした料理の決まり事の多くはハレの日のために洗練されたプロの仕事です。ハレの日やプロの仕事が日常の暮らしに入りこんでしまったから料理が「面倒なもの」になったのです。そんな箍(たが)はすべて外せばいい。ハレの仕事は、普段の家事と区別するから意味がある。
そうすれば日常のケの料理は、ずいぶん楽に、ごくシンプルになります。相撲部屋のちゃんこ(食事)も一汁一菜が基本です。ちゃんこ鍋は、「鍋」と言われていますが「汁」です。なんでもかんでも味噌汁に入れて煮込んだ超具だくさんの汁を、大鍋ごと関取の真ん中に置いて、ぐるりから手を伸ばしておかわりするのがちゃんこ鍋です。
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レシピや形だけのしきたりを気にしないで、どんどん自分で料理することを土井さんは強く推奨している。「料理して食べる食事は暮らしの要、料理してきちんとお膳に整えて食べること。一生懸命に生活することは最高の教育にもなり、人生の幸せにつながる」というのである。












