日本初の“百貨店ゼロ県”になって5年 東京よりある意味便利?「集約化」と「ローカル愛」で戦う地方の買い物事情

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〈都会の人って…〉

 県内には「天童」「三川」「山形南」3つのイオンモールがあるが、山形バイパス沿いには、チェーンの小売や外食が出店し、イオンを補完するような構図となっている。家電量販、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、ファストファッションブランド、ファミレス、回転寿司、ファストフード……現代の日本の消費を象徴するものはほとんど揃っているといえる。

 先日、X上で、

〈そもそも都会の人って、今日はホームセンターとドラッグストアと、それからスーパーで食料品買って、最後にシャトレーゼでアイス買おう なんて日に、どうしているのかしら? 私は、こういうハシゴはしょっちゅうするから、それが出来ないのはすごく不便。〉

 という投稿が話題になった。投稿者は兵庫県にお住まいで車移動がメインの生活スタイルのようだ。都会と地方とで買い物環境がいかに違うかを示す内容だが、この方の視点に立てば、山形のほうが東京の山手線内よりも、ある意味で豊かな買い物体験が効率的にできるようになっているといえるかもしれない。

 山形市や天童や寒河江など村山地方に関していえば、車で1時間強で宮城県の仙台市まで移動ができる。高速バスやJR仙山線といった公共交通機関もあるため、仙台へ日常的に買い物を行く人も多いという。東名阪エリアにはさすがに劣るものの、ネットでは買えない品に関しても、仙台に出ればある程度買うことができるようだ。

地元スーパーで見た「らしさ」の重要性

 ここからはもう少しマクロな視点で山形の買い物事情を見てみたい。山形といえば、冬の雪の厳しさと同時に、自然豊かで食も美味しいことで知られる。

 それは、地元の食品スーパーチェーンを視察してもよくわかった。どこに行ってもさくらんぼ、ラフランス、りんごなど果物の売り場は充実しているし、価格が安い。地元メーカーの山菜や漬物や豆腐も並び、精肉コーナーには米澤牛や三元豚が売られている。地域に密着した品揃えは「さすが山形」だった。

 とくに山形NO.1スーパーとして知られる「ヤマザワ」の売り場は興味深かった。「芋煮セット」が目立つ場所に陳列され、冷たい肉そば、玉こんにゃくといった、山形の家庭料理の品が豊富に並んでいる。他県ではまずお目にかかれない地元の逸品が売り場にあるのは、画一化された東京のスーパーにない光景で、うらやましさを感じた。

「地元らしさ」「ファン作り」を大切にすることもまた、地方の小売業が生き残りの秘訣かもしれない。その点で地場スーパーの「おーばん」には衝撃を受けた。

 訪れる前、地元の人から「おーばんは佐渡ヶ嶽だから」と聞いていた。いまいち意味がわかっていなかったのだが、おーばん桜田南店に行ってその理由がすぐにわかった。駐車場の入り口には、のぼり旗が風になびいていたが、よくわかるキャンペーンや商品の告知ではない。「琴櫻関」「琴勝峰関」など佐渡ヶ嶽部屋の力士ののぼり旗なのだ。

 ほかにも店舗の入り口付近には、「がんばれ佐渡ヶ嶽部屋」看板が掲げられ、琴櫻関の令和6年11月場所の初優勝パネルや場所の記録、番付表などがいたるところに掲示されている。店内には力士別の「勝ち越しおめでとう」のぼりもあった。

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