日本初の“百貨店ゼロ県”になって5年 東京よりある意味便利?「集約化」と「ローカル愛」で戦う地方の買い物事情

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 地方都市の人口減・高齢化と聞くと、買い物弱者の増加やシャッター街を思い浮かべる人も多いだろう。だがそのイメージだけにとらわれていては、実情を見誤ってしまう部分もあるかもしれない。消費経済アナリストの渡辺広明氏が、“日本初の百貨店ゼロ県”の現在をレポートする。

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 2020年1月に大沼百貨店が経営破綻し閉店したことで、日本で最初の“百貨店がない都道府県”となった山形県。今年の5月には、東北では秋田に次いで人口が100万人を下回る県となった。小売・流通の観点でいえば、少子高齢化、人口減が進む日本の買い物環境を先取りしているエリアともいえる。

 今回、現地の小売業を回り、また地元の人にも取材し、その現状を視察した。結論からいえば、前述のデータから想像されるような「不便さ」は感じられず、むしろこの四半世紀で買い物環境が整ったことを再認識できた機会となった。これは、山形県に限らず、ほかの地方都市にも共通する点があるかもしれない。

 とはいえ、山形県といっても広いため、今回はあくまで村山地域(山形市圏)をメインとした流通事情のレポートであることをご承知おきいただきたい。

ネット通販時代の「イオン」の存在意義

 地方の買い物を語るうえで、しばしば語られるのが「イオン」の存在である。イオンの進出によって地元の個人商店がシャッター街に……といったイメージで語られることもあるが、少なくとも車社会の山形では、2014年3月にオープンし東北最大級の広さを誇る「イオンモール天童」が、利便性という点で県民に恩恵をもたらした側面は否定できないと思う。地元民の間では“イモテン”の愛称でとおっているそうだ。

 そもそも、およそ20年前からインターネット通販が普及したことで、“生きるために必須ではないが楽しく生活するための品”いわゆる裁量品は、希少性のあるものをのぞけば、全国どこにいても買える時代となった。具体例を挙げれば、アパレルやゲーム、書籍、生活雑貨やインテリアといったジャンルがそれにあたる。だが、「リアル店舗」の存在が裁量品の購買に及ぼす影響はやはり小さくない。

 2014年に県内初の「H&M」を迎えてオープンした「イオンモール天童」では、今年9月、シンプルで自然体な大人の女性向けカジュアルファッションブランド「LEPSIM」も山形県内で初出店した。買い物環境の“集約化”が進む中でも、裁量品を扱うリアル店舗が成立しているという事実は、今なお店頭で選びたい需要が根強く、今後も簡単には失われないことを示している。

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