「あなたの話はつまらない」と言われ――口下手だった池上彰が“話し上手”になれた秘訣とは?

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 ニュース解説の第一人者といえば、池上彰さんだろう。自分もあんなにわかりやすく話せたら、説明できたらと思う人も少なくないはずだ。

 意外にも、学生時代は口下手だったという池上さん。ガールフレンドから「あなたの話って、ホントつまらない」とそっぽを向かれたことすらあったそうだ。

 そんな池上さんが変わったきっかけは、社会人になり仕事に邁進したこと。新米記者として、警察署の刑事から話を引き出そうと四苦八苦するなかで発見した、<武器になるコミュニケーション術>とは?

 池上さんの新刊『池上彰が話す前に考えていること』には、さまざまな経験を通して磨かれた「思考の整理」のスキルがまとめられている。その中から、伝えるプロが実践する3つのポイントを紹介する(以下、同書をもとに再構成しました)。

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(1)「背伸び」するとバレる

 共通の話題が見つかるに越したことはないけれど、無理して水を向けたところでだいたいうまくいきません。

 私にもしくじり体験があります。島根県に配属された新人記者時代、何をしても暖簾に腕押しの状態だった刑事たちに、ある作戦を仕掛けてみました。島根県には巨人ファンが多いので、巨人にまつわる話題を振ってみたのです。

 ところが、「昨日、巨人がやりましたね!」などと話しかけても、シラけた反応しか返ってこない。それもそのはず、私は筋金入りの「アンチ巨人」だったのです。

 自分にとって何一つ面白くない話題を振ったところで、相手が乗ってきてくれるはずがない。逆に底の浅さを見透かされ、嫌われてしまうのが関の山です。さほど親しくない相手であれば、政治や宗教にまつわる話題も控えたほうが賢明でしょう。

(2)よき生徒になる

「あなたの話に興味があります!」と前のめりの姿勢で耳を傾け、「えっ、そうなんですか」、「教えてくれてありがとうございます」と素直に喜ぶ。

 そんな「よき生徒」を前にして、ネガティブな気持ちになる人はいないでしょう。

「そんなに熱意があって喜んでくれるのなら、一肌脱いでやろうか」という気にもなるものです。さらにたくさんのことを教えてもらえるかもしれません。

 情報や知識を得たいというとき、「誰と付き合うか」だけではなくて、「どのように付き合うか」も大事なのです。

(3)うなずきの魔法

 上手な話し方とは、相手がうなずきやすいように喋ることではないでしょうか。

 速射砲のように次々と言葉を畳みかけると、相手はどこでうなずいていいものか、戸惑ってしまいます。一方、「……ですよね?」と同意を求めるように喋れば、お互いにうなずきながら息を合わせることができるのです。

「話し上手」というと、話の流暢さや明晰さばかりに目が向きがち。でも、うなずきの発想こそが大切だと思うのです。

 緩急、抑揚があるほうが相手も聞きやすくなります。相手にうなずく時間を与え、相手がうなずいてくれれば、さらに先へ話を進めればいいし、相手が腑に落ちない表情を浮かべれば、「何かひっかかるんだな」と気づくことができます。

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 試行錯誤を重ねた池上さんは、次第に「わかりやすいニュース解説をありがとうございます」と言われるようになったという。そんな声に感謝すると同時に、危機感も抱いている。

「安直に『答え』だけを求めて、それ以上のことを考えなくなっている人が増えている気がします。これは危険なことです。安易に答えを探すのではなく、自分の頭で考える習慣を身につけてほしいと願っています」

 池上さんの語り口からは、私たち一人ひとりに「自ら考える」ことを促したいという願いがにじみ出ている。

 ※『池上彰が話す前に考えていること』より一部抜粋・再編集。

池上彰(いけがみ・あきら)
1950(昭和25)年、長野県生まれ。ジャーナリスト。名城大学教授、東京科学大学特命教授、立教大学客員教授など複数の大学で教鞭を執る。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者や番組キャスターなどを経て、1994年から11年間、『週刊こどもニュース』でお父さん役を務める。2005年に独立。『伝える力』『なぜ、読解力が必要なのか?』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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