「外国人問題」を憂慮する新聞記事は同じパターンになっていないだろうか 川口市「クルド人問題」を取材して
いわゆる「クルド人問題」に関連して頻繁に名前が上がる埼玉県川口市の市長が、外国人政策の対応を専門とするセンター設置に向けての要望を国に提出した。
外国人政策は、高市内閣にとって重要なテーマの一つ。
川口市に住んでこの問題を取材したライターの石神賢介氏は、この件の報道を見て、気になることがあったという。以下、石神氏の寄稿である。
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ソックリの記事があった気が
どこかで読んだような記事だなあ。これが最初の率直な感想だった。
12月4日、埼玉県川口市の奥ノ木信夫市長が、自民党外国人政策本部長らととも国に要望書を提出した。市で設立を検討している外国人政策に特化したセンターへの支援を求める要望だ。
川口市は近年、「クルド人問題」に絡んで話題となることが多い。実際はどうなのか――。筆者は2024年、住民目線でこの問題を取材しようと考え、現地に住んでみた。その成果は拙著『おどろきの「クルド人問題」』に詳しい。
「どこかで読んだ」と感じたのは、市長の要望を伝える東京新聞の記事である。12月5日、同紙はこの件を「川口市が外国人政策拠点 設置検討 自民議員ら国に支援要望」という見出しで、1面で報じていた。
記事ではセンターの構想や要望の概要をコンパクトに伝えている。筆者が気になったのはリードの一文だ。
「実現すれば、非正規滞在者らの取り締まりが厳しくなる可能性がある」
もちろん「厳しくなるといいね!」というニュアンスはない。過度な取り締まりを憂慮している。
さらに本文ではクルド人支援団体による、要望を批判するコメントも紹介。川口市は先の参議院選挙で外国人排斥を訴える候補がいたり、ヘイトスピーチデモが行われたりしており、外国人は不安を感じている、そうした点が顧みられていない、という主旨だ。
支援団体の人がそのように言うのは理解できる。法に則って日本で暮らしている外国人を憂慮することに文句はない。
筆者が気になったのは、東京新聞の記事の作りのほうだ。というのも、同紙が川口市の外国人問題を大きく報じた10月の記事と作りが極めてよく似ている。
リードも構成も似ている
10月1日、同紙は1面トップで「外国人排斥 あおる恐れ 川口市 異例の意見書」という記事を掲載していた。川口市議会が市内に住む在留資格のない外国人の一時収容施設の建設を含む、外国人政策に関する意見書を国に提出することを決めたと報じている。
リードには「専門家は人権侵害の可能性を指摘する」とある。さきほどと同じ“可能性”の心配だ。
本文記事の構成もよく似ていて、市議会の意見書の中身など事実を伝えたうえで、市民団体や弁護士による批判コメントが掲載されている。
おわかりのように、二つの記事の展開はほぼ同じ。
(1)川口市(市長や市議会)の外国人政策に関するアクションを伝える。
(2)何らかの懸念をリードで指摘する。
(3)本文ではファクトを簡単に伝えたうえで、アクションを批判するコメントを紹介する。
もちろん、フェイクニュースと言いたいわけではない。しかし(1)の“背景”についてはまったくといっていいほど触れていない点も共通している。つまりなぜ、川口市側がそんなにアクションを起こしているか、起こさざるを得なかったのか、という点だ。意見書の中身を引用する形で、市内での迷惑行為が問題視されていることに言及はあるものの、肝心のもっとも憂慮されるべき市民の声は一切ない。川口で暮らしている人たちの困惑についても報じてほしいなあ、と思った。
気になって今年に入ってからの東京新聞の記事を見てみた。「川口市」「クルド人」で検索した記事を読んでみると、同紙がこの問題に熱心なことはよくわかる。
【埼玉・川口 クルド人排斥デモ差し止め求め提訴 SNS中傷激化…苦悩 入居拒否/同級生から「国に帰れ」 「知事は現地に来て」】(2月15日)
【こちら特報部 クルド人ヘイト SNSが温床】(3月16日)
【差別なき社会へ クルドヘイトに「ノー」 埼玉・蕨でも毎週末 抗議活動 川崎駅前読書会の男性「市民の監視、抑止力に」】(6月28日)
なぜ市民の声はないのだろう
差別なき社会を目指すという理想に異論はない。
一方で、やはりどうしても気になるのは、これらの記事で一般市民の生の声が一切見られないことだ。
現実的に市民は困っている。異なる文化を持つ在留資格のない外国人の行為を恐れている。実際に近年、市内ではクルド人対クルド人による病院前での暴動、未成年女子への性的暴行、無免許ひき逃げ等が起きている。ひき逃げでは死者も出た。
市民は、まず生活環境の保全をはかってほしいと願っている。
いくつも事件が起きている事実からどうか目を背けないでほしい。
筆者が川口市に滞在していたのは、そんなに長い期間ではない。
それでも滞在して住民の目線を意識して市内を歩けば、クルド人をはじめとする外国人との「共生」への不安を口にする人、在留資格を持たない外国人による迷惑行為に憤る人に出会う。
立ち小便をはじめとする問題行為、過積載で飛ばすトラック、インフラの破壊跡などはいくつも目撃した。
取材で聞いたエピソードを一つご紹介しよう。市内で一人暮らしていた高齢の女性の家の隣は突然クルド人が経営するヤード(解体業の廃材置き場)になった。高い金属製の塀で日光が遮られたので、塀を低くしてほしいと頼むと日本語で恫喝されたそうだ。
「お前が金を払うなら塀を低くしてやる」
怖くなった女性は引っ越した。
その現場を市議会議員の人の案内で見に行った。問題の塀は隣の家主の去った家に向かって倒れ掛かっていた。こうした住民の困惑を見逃してはいけないのではないだろうか。
今回国に要望書を出した奥ノ木市長へのインタビューの掲載も検討してもいいのでは、と思う。要望書に懸念があるならば、提出した本人に確かめてみてはいかがだろう。
奥ノ木市長はこの問題に関する取材にオープンな姿勢を見せている。フリーランスである筆者の取材にも応じてくれた。その内容を『おどろきの「クルド人問題」』に収録することも快諾してくれた。
住民の不満や不安に耳を傾けつつ、殺害予告をされながらも、差別などをなくす姿勢を見せる市長の言葉には説得力があった。
「在留資格のないクルド人は自国に帰るべきです。それなのに、国の入管庁の判断で、多くが仮放免扱いで川口市にいます。その間彼らも食べなくては生きられません。それで、あくまでも国の厳重な管理のもと、働く場が必要と判断したわけです。入管庁が仮放免にした外国人に仕事がなく、お金もないと、トラブルの原因となります。しかも問題が起きれば後始末は地方自治体任せ。市の財源は圧迫されています。もっと国に責任を持ってほしいということです」(『おどろきの「クルド人問題」』より)
至極まっとうな発言だと思った。在留資格をもたない外国人であっても命のリスクは取り除き、同時にトラブルも防ごうという姿勢を感じた。
「日本人にも善人と悪人がいるように、クルド人もさまざまです。人柄ではなくて、法で明確に線引きして対応しなくてはいけません。在留資格のない外国人は送還。在留資格のある外国人とは共生の道をさぐる。仮放免の外国人は国の責任で管理を徹底してほしい。自治体任せにはしないでもらいたい」(同)
この発言には、混沌とする市内の外国人状況を法に則ってリセットし、秩序を作り直していくという自治体の長としての意思を感じた。ただし、外国人の出入国について自治体でできることはほとんどない。国の力を頼るしかないもどかしさがにじんだ。だからこそ、国に要望書を提出しているのだろう。
筆者には、市長や市議会の主張は差別的とは思えない。
もちろんいかなる政策であっても、“副作用”のようなものが生まれるだろう。リスクは否定できない。それを最小限に抑えるように努めなくてはならない。その点は東京新聞が心配する通りだ。
それでも住民の生の声やその代弁者たる市長、市議会の声に耳を傾けない報道を重ねることは、かえって分断を深める気がする。
現在、入管は法に則って、在留資格を持たない、つまり難民申請をして2回以上不認定になった仮放免状態の外国人をこつこつと自国に送還していると聞く。航空券や護送官をはじめ人件費などのコストがかかるので、少人数ずつの送還になるのはやむを得ない。
強制送還される外国人をかわいそうだと言う声もある。「情」としてはわかる。
しかし、税金を納めずにインフラを利用して働いている、難民と認定されない不法滞在者を放置するわけにはいかない。在留資格のある外国人とは共生する。在留資格のない外国人は自国へ帰っていただく。法で線引きをして、時間をかけても、シンプルに解決していくしかないのではないか。










