中国系航空会社の値下げが止まらない 東京→上海→バンコク「往復3万円」便で見たサービス劣化の現場
日中関係の冷え込みが続くなか、街から中国人観光客の姿が減っている。一方、空の上では別の異変が。中国系航空会社の運賃が“価格破壊”といえる水準まで下がっているというのだ。そこには「高市発言」とは別の中国事情が透けて見える――。旅行作家の下川裕治氏がレポートする。
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【画像】上海浦東空港は「全店閉店」状態で…快適とは言えない機内の様子 ほか
中国系航空会社の運賃値下げが止まらない。
東京とバンコクを結ぶ路線は、1年ほど前から値段が下がりはじめた。往復で4万円を切り、今年の夏には3万円に近づき、秋には2万円台になった。以前から年に数回は東京とバンコクを往復しているが、往復2万円台の記憶はLCCを含めてもなかった。こうなると、もはや値崩れである。
値下げが続いているのはバンコク路線だけではない。来年1月中旬の運賃を見てみると、シンガポールが往復約3万3,000円。インドのデリーが往復5万5,000円台。パリ往復は9万6,000円ほどまで下げている。
航空券の料金検索サイトを見ると、「最安値は中国系航空会社」という傾向に気づく。
中国系航空会社というのは、中国の三大国営基幹航空会社といわれる「中国国際航空」「中国東方航空」「中国南方航空」を指す。航空会社のジャンルでいうとFSC。これはフルサービスキャリアのことで、日本でいったら日本航空や全日空にあたる。預ける荷物は上限はあるものの無料で、機内食も無料で提供される。それなのに、預ける荷物は有料で、機内食がないLCCよりはるかに安い事態となっているのだ。
勘ぐりたくもなる。国営に近い航空会社である。資金力にものをいわせて、一気にシェアを増やそうとしている、という見方もできる。バンコクのある旅行会社に、一般の人は見れない業者専用サイトで調べてもらった。
「航空券が高い時期に値下げして、一気に中国系航空会社のシェアを増やす? 運賃の動きを見ていると、その意図は感じられないですね。それよりもすごくトリッキー。3万円台の翌日が6万円台になったりする。30分前にあったフライトが急に予約不可にもなる。これは機械ではなく、人がいじってますね。集客に必死になっている航空会社がよくやる手法です」
高市発言に中国が反発するなかで、中国政府は自国民に日本渡航自粛を要請している。それを受け、中国系航空会社は日本路線便を減便し始めている。しかし運賃の値下げからは、それとは違う中国事情が透けて見える。
往復3万1,000円でバンコクへ
12月中旬、中国系航空会社でバンコクに行ってみることにした。利用したのは中国東方航空。上海乗り換え便で往復3万1,000円ほどだった。往路は13時に成田国際空港を出発し、上海浦東国際空港で乗り換え、乗り継ぎ時間は5時間ほど。0時55分にバンコクに着く便だった。
中国系航空会社を利用し、荷物が目的地に届かないトラブルをこれまで3回経験していた。特に乗り換え時間が短いフライトの組み合わせは不安だった。
成田国際空港で乗り込んだ上海便の座席間隔は、LCC並みに狭かった。もう少しで膝が前の座席の背に着いてしまう。シートテレビもない。以前は広告で埋まった分厚い機内誌がささっていたが、それもない。それでもしっかりとした機内食が出た。焼きそば、果物、パウンドケーキ。ビールも無料だった。それを口に運びながら、「食事が出るLCCってところか」と思った。搭乗率は6割ほど。乗客は欧米人が目立った。半分ほどか。あとは日本人と中国人だった。
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