「プーチンの歌姫」と非難された世界的オペラ歌手「ネトレプコ」が“本格復帰”…圧倒的な歌唱で魅せる「トスカ」の舞台映像が1週間限定で上映へ

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ウクライナ侵攻後のクラシック界

 ロシアのウクライナ侵攻は、アメリカによる和平案が提示され、協議がつづいているものの、やはり一筋縄ではいかないようだ。このまま越年は確実と思われる。

 2022年2月24日のロシアの侵攻開始以来、クラシック音楽界でも、一斉にプーチン批判が巻き起こった。西側のオーケストラや歌劇場は、プーチン&ロシアへの反対意志を表明しないアーティストを、続々と降板させた。

 そのなかで、最も注目を浴びたのが、ロシアの人気指揮者、ヴァレリー・ゲルギエフだった。ゲルギーの愛称で知られ、ロシア国内ではマリインスキー劇場の芸術監督・総裁、西側では、ロンドン交響楽団やミュンヘン・フィルハーモニーの首席指揮者、さらにはウィーン・フィルハーモニーも指揮。世界最高峰の歌劇場、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にも登場した。カラヤン亡きあと、世界楽壇の新“帝王”の貫禄さえ漂わせていた、

 だが彼は、プーチンと数十年におよぶ交流をもつ“親友”同士だった。それゆえ、ウクライナ侵攻がはじまってもプーチン支持は、変えなかった。

 西側の楽団や劇場は一斉に意思表示を求めたが、ひたすら沈黙。かくして“帝王”ゲルギーは、所属事務所をはじめ、すべての楽団・劇場・音楽祭から解雇・降板させられた。来日公演も中止となった。

 ところが、そんな窮状を見かねた“親友”プーチンが「そんなに仕事がなくなったのでは、気の毒だ」といわんばかりに、2024年7月、ボリショイ劇場の指揮者に就任させた。報道によれば、2029年までの任期で、ギャラは約500万ドル(約7億7000万円)! これが火に油を注ぐこととなり、ゲルギーは、西側音楽界から完全に姿を消す結果となった。

 それでも2025年夏には、イタリアの音楽祭に出演することが発表され、そろそろ“雪解け”かと思われた。ところが、実はその音楽祭がEU(欧州連合)の援助を受けていたものだから、たちまち抗議が発生し、またも降板となった。

 さて、そんなゲルギーが見出し、育て上げた世界的オペラ歌手が、アンナ・ネトレプコである。日本のファンの間では「ネトコ」の愛称で知られている。美しい容姿、圧倒的歌唱力と演技力、幅広いレパートリー。特にメトロポリタン歌劇場(通称MET)での人気はすさまじく、長年、同歌劇場の人気スターだったルネ・フレミングが高年齢に至って出演を減らしてきたのに対し、一挙にとってかわって、新たな“METの歌姫”として君臨していた。

 だが、ネトコには、もうひとつ、少々やっかいな愛称があった。彼女は、“プーチンの歌姫”でもあったのである。

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