「プーチンの歌姫」と非難された世界的オペラ歌手「ネトレプコ」が“本格復帰”…圧倒的な歌唱で魅せる「トスカ」の舞台映像が1週間限定で上映へ

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そしてついに、ロイヤル・オペラに出演

 ウクライナ侵攻~ネトコ“排斥”から3年が過ぎた。その後、彼女は少しずつ公演を再開させ、モンテカルロ歌劇場、スカラ座、ヴェローナ音楽祭などで、相変わらず衰えない見事な喉を披露してきた。

 そして2025年夏、ネトコをめぐる新たな“衝撃”が、伝えられた。イギリスの名門、コヴェントガーデン王立歌劇場(通称「英国ロイヤル・バレエ&オペラ」=RBO)、2025/26年シーズン幕開けの「トスカ」と「トゥーランドット」に主演すると発表されたのだ。

 RBOは、その名のとおり、英国王室がパトロンである。そんな名門に、世界中で批判の声にさらされている歌手が出演する――そもそも、今シーズンは、新しい音楽監督、ヤクブ・フルシャの初お目見えである。初日の10月1日「トスカ」は、そのフルシャの初指揮、さらに同劇場のオペラ総監督オリバー・ミアーズ自身による新演出だ。歌舞伎でいえば顔見世にあたる、今シーズンの意気込みを示す予告編のような、重要なステージなのだ。それを、ネトコに委ねるとは……。

 もうひとつ“衝撃”だったのは、その舞台が、映像に収録されることだった。RBOは、「METライブビューイング」同様、舞台映像に、たいへん力を入れている。「Royal Ballet and Opera in Cinemas 英国ロイヤル・バレエ&オペラinシネマ」である。ライブビューイングとして全編が映像収録され、世界19カ国、953館で公開されるのだ。その舞台に出るということは、世界中にいまの自分をさらすことを意味する。

 案の定、この出演に対し、イギリスでは賛否両論が巻き起こった。ウクライナ系の芸術家や超党派の国会議員団、ニュージーランドの元首相ヘレン・クラークら約50人は、RBOに対し、ネトコを降板させるよう要請した。特にクラーク元首相は「彼女こそ、戦争犯罪者による政権の、文化プロパガンダの象徴である」とまで断じた。

 それでもネトコは沈黙を守り、RBOは予定通りのキャストで公演を実施すると発表。周辺には、小規模ながらデモ隊も押し寄せたが、10月1日、RBOは「トスカ」の幕を開けた。

 プッチーニの「トスカ」といえば、政情不安な1800年のローマを舞台に、歌姫フローリア・トスカをめぐる三角関係をドラマティックに描いた、まさに、“オペラの中のオペラ”である。上演時間も短いので見やすい。全3幕、正味ほぼ2時間(休憩を入れると約3時間)。物語も単純で、美しい旋律が次々に登場する、初心者でも十分楽しめるオペラだ。

 ネトコにとってトスカ役は、世界中で何度も演じて歌ってきた、自家薬籠中の演目である。だが、今回ばかりは、いままでとは、わけがちがう。さんざん批判され、外にはデモ隊が押し寄せている。もしかしたら、客席に反対派がいるかもしれない。しかも世界中で「映像」として上映される。これほどの大舞台も、ひさびさだ。初日をしくじったら、シーズン全体のイメージもこわしかねない。責任重大である。

 その「映像」が、12月19日(金)~25日(木)の1週間限定で、日本でも上映される。果たして、出来は、どうだったのか。ひと足はやく試写で鑑賞した、クラシック興行関係者に、聞いてみた。

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