「プーチンの歌姫」と非難された世界的オペラ歌手「ネトレプコ」が“本格復帰”…圧倒的な歌唱で魅せる「トスカ」の舞台映像が1週間限定で上映へ

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なぜ“プーチンの歌姫”と呼ばれるのか。

 いったい、ネトコとプーチンは、どんな関係だったのか。ロシア情勢に詳しい外信部記者に解説してもらった。

「ネトレプコ嬢とプーチン大統領が近い関係にあったのは事実です。過去の大統領選挙では、おおやけに応援活動をして、彼女は〈ロシア人民芸術家〉の称号を受けています。また、2014年のロシアによるクリミア併合のときには、併合を支持する声明に署名しています。いまでもネットを検索すると、プーチンと仲良く一緒に写っている写真が出てきますよ」 

 それでも、2022年のウクライナ侵攻にあたっては、Facebookで反対の意思を表明したという。

「問題はその先で、侵攻そのものには反対するものの、プーチンに対する態度は表さないのです。世界中のオペラハウスから、“プーチン政権をどう思っているのか”と意志表示を求められても、どうもはっきり表明しない。その結果、メトロポリタン歌劇場から“解雇”されるという、衝撃的な事態に発展しました」

 METに“解雇”されるということは、事実上、世界のオペラ界から締め出されたようなものである。いまMETは、公演をライブ映像でおさめて世界中で公開する「METライブビューイング」を大成功させている。これによって、オペラ歌手は、声と顔と名前を世界中に売り込むのである。舞台に出られないということは、そのライブビューイングにも出演できないわけで、知名度を失うことにもなりかねない。

 METで20年以上にわたって総裁をつとめている“ボス”、ピーター・ゲルブは、徹底的な反プーチン派である。ウクライナ侵攻がはじまるやすぐに、劇場としてのウクライナ連帯を表明し、公演前にはウクライナ国歌を斉唱させ、チャリティーコンサートを開催、ウクライナ人によるオーケストラまで結成した。それだけに、煮え切らないネトコの態度は許せなかったようだ。しかも、稼ぎ頭だった“METの歌姫”が、実は“Putin’s Diva(プーチンの歌姫)”だったのだから。

 METのゲルブ総裁が、そのような態度に出たことで、世界中のオペラハウスや音楽祭も、ネトコを締め出す結果となった。

「ネトレプコは、この仕打ちが、相当悔しかったのでしょう。METに対し名誉棄損・契約不履行で、約35万ドル(約5500万円)を請求する労働争議(事実上の訴訟)をおこしています」

 このあとは、世界中で“泥沼”の混乱状態がつづいた。世界各地で彼女の公演がキャンセルとなった。時折、実施される公演があると、反プーチン派が会場に押し寄せ、抗議活動を展開した。

「あまりに混乱がつづくので、彼女は、二度にわたって声明を発表しています――〈私はこの侵攻に反対する。私はロシアを愛しており、ウクライナにも友人が多くいるので、つらい。しかし、芸術家に政治的な意見を言わせ、母国を批判させることは、よくない。私は政治家ではない。いまはオーストリアに住んで(反プーチンの)同国に納税している〉といった内容でした。要するに、やはり、侵攻には反対するが、プーチン個人に対しては悪くいいたくない、というニュアンスでした。これで彼女の音楽界における地位は、決定的になりました」

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