明石家さんま「インテリジェンスの達人」説 秘密情報が集まって来る事情が判明!
就任早々、高市早苗新総理が打ち出した政策の一つが、国家の「インテリジェンス機能の強化」である。そのために「国家情報局」創設の検討も始めるという。
情報を収集し、分析し、行動に生かす――この能力が国家、企業はもちろん時に個人にも求められるのは言うまでもない。
長年、明石家さんまと公私ともに親交を深めてきた元日本テレビプロデューサーの吉川圭三さんは、著書『人間・明石家さんま』の中で、さんまの知られざるインテリジェンス能力の高さについて考察をしている。天才的な反射神経でトークを展開しているように見られがちなさんまの情報収集にまつわる意外な素顔と、その「外交術」の秘密がわかるエピソードを同書からご紹介しよう(以下、『人間・明石家さんま』より抜粋・再構成しました。文中敬称略)
膨大な情報をインプットする
仕事での「アウトプット」がものすごいからその印象がないが、さんまは「インプット」もすごい。脳科学的に言えば、この「入ってくる情報」と「出てゆく情報」の大量な入出力があるからこそその記憶力もブラッシュアップされているのかも知れない。
1日3時間程度しか寝ないショートスリーパーで、ヨーロッパサッカーをはじめ、野球、ボクシングなどありとあらゆるスポーツを把握していることはよく知られているが、韓国歴史ドラマや映画の鑑賞量、読書量についてもかなりのものである。私はさんまの楽屋に顔を出す際は、最近面白かった映画のDVDや書籍を差し入れすることが多いのだが、「あぁ、これ見たで」となることも多い。本は文豪の名作から最近のベストセラーまで読んでいるし、映画も古典からスタジオジブリ作品まで古今東西のものを観ている。
たとえば、司馬遼太郎さんの小説で、彼が特に気に入っているのが『俄(にわか)─浪華遊侠伝─』という小説である。
なんとこの小説の主人公の名前は「明石屋万吉」。江戸時代から大正時代にかけて生きた実在の人物である。体を張った“どつかれ屋”として身を起こし、生来の勘と根性と愛嬌で、浪華で知らぬ者はない侠客となり江戸末期に侍となった数奇な男の物語である。私もさんまに薦められて読んだが、「明石屋」という名前もさることながら、その信念を曲げない人物像はさんまととても似通った部分がある。さんまは「明石屋万吉」に自らを重ねているのかもしれない。
映画に関して言えば、さんまのお気に入りはチャールズ・チャップリン監督・主演の「モダン・タイムス」(1936年)だと聞いた。彼の歌の場面以外はセリフがないサイレント映画で「文明・技術至上主義批判」などとも評される作品だが、チャップリンは見事に見せ場たっぷりの極上のエンターテインメント映画に仕上げている。間違いなく映画史に残る傑作であり、さんまがベストワンに挙げるのも納得だ。
チャップリンとは毛色が違うが、喜劇役者スティーヴ・マーティン主演の隠れたホームコメディの名作「バックマン家の人々」(1989年/ロン・ハワード監督)もさんまがこよなく愛する一本だ。
コメンテーターをやらない理由
ただし、こうした知識をテレビやラジオなどで披露することはほとんどない。だからなのか、過去には「BIG3の中では教養に欠ける」というような指摘もあった。だが、私はこれはさんまの本質をとらえていないと考えている。
さんまは映画やミュージカル、国内外の音楽にも詳しいし、社会問題や国際情勢にも独自の視点を持っている笑福亭松之助師匠ゆずりの「思想と哲学を持った人」である。しかし、さんまはいつもこう言う。
「オレはあくまでお笑い芸人や。専門家でもない人間が中途半端に喋ったとしても、それは見ている人にとってオモロイことになるとは思えんのよ」
あくまでも自分はお笑い芸人として全力を尽くす──お笑い芸人・タレントがコメンテーターのように振る舞うのが当たり前になった時代でも、さんまの姿勢は全く変わらないのである。
360度外交
番組作り一つにも妥協を許さず、芸にも厳しいさんまだが、驚嘆するのは芸能界の派閥に全く属していないことである。
業界最大手のお笑いプロダクション・吉本興業の所属ではあるが、競合する松竹芸能をはじめ、劇団ひとりが所属している太田プロ、中山秀征が所属するワタナベエンターテインメント、爆笑問題が所属するタイタン、オードリーが所属するケイダッシュステージなど他のお笑い系プロダクションとも全く対立していない。
要は芸人や俳優、タレントたち演者と現場で面白さを追求して仕事を黙々とこなしているだけで、芸能界のテリトリー主義や業界内政治などには一切関与しないのである。我々スタッフからすると、余計な気を回す必要がなく、とても仕事がし易い。明石家さんまは、360度対応可能という、放送の世界では稀有な存在なのだ。
吉本興業においても突出した存在であるさんまだが、本人が義理堅く対応能力が秀でているからか、吉本の方もさんまに最大の敬意を持って遇しているからか、独立話などは少なくとも私が仕事を始めてからは出ていない。
ネットが隆盛を誇る近年、他人や先輩を否定したり誹謗中傷することでのし上がろうとする若手芸人、YouTuber、ネット文化人が少なくないが、そういった人々から自身が批判されても全く気にせず平気で共演するさんまの存在は本当に貴重であると思うのだ。
なぜ情報が集まるのか?
国際的な防諜・諜報の領域や熾烈なビジネスの世界では、絶えず機密情報の収集が行われているわけなのだが、日本一のお笑い芸人である明石家さんまのもとにも日々重要な情報が集まって来る。テレビ局やエンターテインメント業界の人事情報、芸能界に関する極秘の話、内外のスポーツ業界のレア情報から、さんま自身が関心のありそうな森羅万象あらゆる種類の情報まで。
なぜさんまの元にだけ、これだけ集中的に、その上かなり正確な情報が入って来るのか? 私は考えてみた。もちろんさんま本人が積極的に情報収集している訳ではない。
ただ、楽屋や日々の会食、オフの時間などにさんまは多種多様な人々と会っており、その時接触する相手がレア情報を話すと、
「ほんまかぁ~? それは知らんかったわ~」
とテレビ並みのかなり大きなリアクションを取りながら、その情報を愛でてくれるのである。情報提供者はそのさんまの喜び様に感激し、また次なる機密情報を持って来る。情報提供の対価としてさんまに喜んでもらうという“喜びの報酬”欲しさに、かなり貴重な情報が集まって来るのだと思っている。
そう、明石家さんまは稀代の聞き上手でもあるのだ。
そして、これはさんまに情報が集中するもう一つの理由と言っても良いのだが、テレビなどのイメージと違い、さんまが人から聞いた貴重な情報をメディアや周囲の人間に不用意にベラベラ喋ることは滅多になく、口は堅い。だから、情報提供者も安心して貴重な情報を提供するのだ。
さんまがこうした処世術をいつどこで会得したのかはわからない。しかし、日々集まってくる膨大な情報を蓄積し、まるで一流シェフのようにデリケートに扱いながら、時に絶妙なバランスでトークの現場に投入しているのは間違いないと思うのだ。だからさんまのトークの切れ味はひと味もふた味も違うのではないだろうか。
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収集した膨大な情報をひけらかさず、丁寧に扱いつつ、無駄に敵を作らず360度外交を展開する――インテリジェンス能力を高めたい人の参考になる点が多々ありそうだ。










