都心マンション「35年ローン」or「50年ローン」or「賃貸」どれが正解? データが導く令和の最新結論は

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30年間のリアルなコスト比較

「購入か賃貸か」は永遠のテーマですが、具体的な数字で比較してみると意外な事実が浮かび上がります。ここでは、都心の典型的な条件でシミュレーションしてみましょう。

【前提条件】

 1億2000万円の新築~築浅マンション(70平方メートル前後)をフルローンで購入、金利は0.7%の変動金利を想定します。一方、賃貸では月額30万円でマンションを借り続けた想定で、30年経過時点のコストを比較します。

「購入」(35年ローン)の場合、ローン返済総額は約1億4600万円(うち利息が約2600万円)で、30年間のローン支払額は約1億2500万円。これに管理費が30年分で1080万円、修繕積立金(増額込み)が1620万円、固定資産税が30年分で900万円、さらに大規模修繕の一時金150万円が加わり、30年間の総支出は約1億6250万円に達します。また、30年経過時点ではローンの残債がまだ約1900万円あります。

 ちなみに、最近増えつつある「50年ローン」で購入した場合は、どうなるでしょうか。超長期ローンでは月々の返済額が抑えられる反面、利息負担の構造が変わります。30年経過時点で、ローン返済総額は約1億3920万円(うち利息が約1920万円)で、30年間のローン支払額は約8360万円。管理費や修繕積立金、固定資産税などは35年ローンと同じですから、30年間での総支出は約1億2110万円となります。ただし、ローン残債は約5310万円と、35年ローンの3倍近くとなります。

「賃貸」の場合では、どうなるでしょうか。30年分の家賃が1億800万円、更新料(2年更新×15回)が450万円、初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)が150万円、つまり30年経過時点の総支出は約1億1400万円となります。賃貸ですので、ローン残債はもちろん存在しません。

 この数字を見ると、「50年ローン」と「賃貸」の30年経過時点での総コストがほぼ同じという興味深い事実が明らかになります。ただし、50年ローンの場合は5000万円以上もの借金が残ることになります。

 よく「賃貸は資産にならないから買った方が得」という話を聞きますが、購入した場合でも30年住んでローン残債がこれだけあるという現実を、どれだけの人が理解しているでしょうか。

 ちなみに、賃料を25万円で抑えられた場合は、30年間総支出が約9500万円となり、賃貸の優位性がさらに明確となります。

元利均等返済という「罠」

 多くの人は、長い間ローン返済を続ければ元金がどんどん減っていくというイメージを持っています。毎月きちんと返済していれば、借金は着実に減っていくはずだと。ところが、「元利均等返済」というローンの仕組みは、そうしたイメージとは大きく異なります。

 元利均等返済では、毎月の返済額は一定ですが、その内訳は時間とともに変化します。返済初期は利息の割合が非常に高く、元金はわずかしか減りません。返済後期になってようやく利息の割合が減り、元金の返済が進むという構造なのです。

 つまり、50年ローンで30年間返済しても、まだ返済期間の6割しか経過していないため、元金の減り方が極めて遅いのです。前述のシミュレーションで、30年経過時点での残債が5000万円以上あるのは、まさにこの返済構造が原因です。

 さらに深刻なのが、変動金利を選択している場合です。金利が上昇すると利息支払いの負担が増え、ますます元金が減らないという悪循環に陥ります。そうなると、それなりの返済期間が経過しても一向に元金が減らないという事態が現実になるのです。

 高額な借入をしている場合、この特性は極端に目立ちます。1億円を超えるローンを組んでいれば、30年経っても元金がほとんど減っていないという状況は決して珍しくありません。

建物寿命と資産価値の厳しい現実

 購入派が主張する「資産になる」という点についても、冷静に考える必要があります。

 現状では不動産価格自体が高騰しているため、資産価値が下がるという点は想定しにくいかもしれません。しかし、長期的な視点で見れば、建物の価値は確実に減少していきます。

 仮に1億2000万円で購入したマンションが、30年後にどのような状態になるか。「公益財団法人東日本不動産流通機構」などによる「築年帯別成約価格の推移データ」と、都心高額物件の売却事例を分析すると、以下のような想定ができます。

 管理が良好な場合でも、30年後の資産価値は3000万~4000万円程度と、購入価格の約3~4割にとどまるでしょう。管理不良の場合は2000万円以下、または「売却困難」という状況も考えられます。

 RC造のマンションは会計処理上、法定耐用年数が47年と定められていますから、減価償却を計算しても30年で簿価が大きく減少することは明らかです。資産価値は主に土地の持分によって下支えされますが、建物自体の価値は大幅に下がるため、購入時の3~4割程度の価値に減少することが一般的なのです。

 特に資産価値を左右するのは、管理組合の機能状況、修繕積立金の健全性、大規模修繕の実施状況、周辺環境の変化、駅からの距離・立地条件といった要素です。これらの条件が悪ければ、資産価値はさらに下がる可能性があります。

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