「頭と胴体が離れ離れに…」 北朝鮮の「公開処刑」最新事情 脱北者は「『ナルト』を見たことが脱北のきっかけ」
北朝鮮の金正恩総書記(41)は、10月に行われた朝鮮労働党創建80年の式典で「世界で最も立派な社会主義の楽園を築き上げる」と演説した。実情を知るものにとっては“悪い冗談”というほかない。2020年以降に脱北した人々が、この数年の惨状を明かした。
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北朝鮮に九つある行政区域「道(ド)」のうち、南西に位置する黄海南道(ファンヘナムド)は南を韓国、西を黄海に接し、国内有数の穀倉地帯として知られる。その中の碧城(ピョクソン)郡という農村で暮らしていた脱北者のキム・イルヒョク氏(35)は、そこで目にした「公開処刑」の情景が忘れられないと語る。
キム氏の友人で「糾察隊」に勤める男性が急な呼び出しを受けたのは、2022年7月のこと。普段は警察の下で闇商売の取り締まりなどに当たっている糾察隊だが、この日の仕事内容は不可解だった。碧城郡にはチタニウム鉱山の廃鉱があり、そこのボタ山に穴を掘って3メートルほどの角材を立てろというのだ。
「また採掘でも始めるのかな?」
そう内心で訝りながら、雨の中苦労して2本の角材を立てた。さらにそれだけで終業とはいかず、人が寄り付かないよう夜通しの見張りを命じられた男性は、濡れネズミになって朝を迎えた。この作業の意味が分かったのは、その日の昼前ごろのことだった。
子供も動員
キム氏が当日の様子を振り返る。
「町に放送車が来て、スピーカーで公開処刑が行われることを知らせて回っていました。罪人は二人おり、一人は22歳で韓国の歌を70曲、ドラマを3本視聴し、他人にも広めたという罪。もう一人は33歳で、9年前の殺人で最近捕まったといわれていました。前者は私の弟分のような人物で、私は雨の中緊張して処刑場に向かいました」
キム氏が到着した時には、すでに二人はくだんの角材に縛り付けられ、頭には白い布が被されていた。
「そのため、罪状が正しいのかはおろか、本当に本人なのかも確認できません。公開処刑のときは、職場や学校ごとに責任者が引率し、人民を観衆として動員します。司法関係者を除けば、身分や年齢、性別にかかわらず参加は義務。どうしても見たくない場合は“体調が悪い”“大事な約束がある”などとうそをついて逃れることもできなくはない」
また、北朝鮮には10歳から加入する子供の政治組織「少年団」があり、未成年者が処刑される場合は、これに加わったばかりの子供も教育として義務的に動員されるという。
「すぐに処刑が始まることはなく、いつも観衆が集まってから執行されます。露骨に『罪を犯せばこうなる』とは言わないものの、見せしめであることは明らかです。あの日は悪天から普段より観衆が少なめで、1000人程度でした。執行直前には、軍人から罪状が改めて知らされます」
そして罪人から15メートルほど離れた場所に、3名ずつ6名の狙撃手が並ぶ。彼らが銃を構えると、ざわついていた人々は静まり返った。
「各狙撃手が5発ほど、罪人の胸を狙い発砲しました。単発式の銃ですが、複数人で撃つためタタタン、と連発に聞こえたのを覚えています。見たくないので、ほとんどの人民は顔を伏せていました。自分は立ち会いながら“いつかは俺も……”と大変な恐怖に駆られました」
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