「頭と胴体が離れ離れに…」 北朝鮮の「公開処刑」最新事情 脱北者は「『ナルト』を見たことが脱北のきっかけ」

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頭と胴体が離れ離れに……

 23年5月に脱北するまで、キム氏はこうした公開処刑を頻繁に目にしていたと語る。

「20年以降、公開処刑の件数が目立って増えたのです。以前は1年に1度あるかどうかだったのに、20年から私が脱北するまでの間には、3カ月に2度ほど行われるようになっていました。特にお金持ちや権力者が処刑される時にはその方法が残忍になり、高射砲で体をバラバラに吹き飛ばされてしまった人もいます。そうでなくても、胸から狙いがそれて首に当たり頭と胴体が離れ離れになってしまうなど、処刑は凄惨を極めます」

 処刑が増加した背景の一つは、キム氏の“弟分”のように韓国など他国の作品を視聴したり、それを流布したりすることを禁じる「反動思想文化排撃法」が20年12月に制定されたことである。金正恩総書記は目下、韓国コンテンツの流入を阻止するため血眼になっているという。

「排撃法ができる以前は、アメリカや日本、韓国のドラマを見てもせいぜい刑務所送りだったのです。それが今では流布すると死罪もあり得、実際、私が目撃した公開処刑の半分ほどは排撃法違反でした。テレビの周波数が固定されているか、ドラマなどが入ったUSBやレコーダーを持っていないか、新設された検閲部隊が目を光らせています」

 以前はというと、各家庭に年2回ほど検閲が入るだけだった。ところが排撃法制定後は怪しい家を選んで1カ月に2回ほど新検閲部隊が家宅捜索を行うほか、道行く人に抜き打ちチェックも行うように。家での捜査は「タンスから何からすべてひっくり返す」ほど徹底していると明かす。

「程度の差はあれ、北朝鮮の20~30代で韓国文化に触れていない人なんていません。私も若い時から少女時代のようなK-POPが大好きでしたし、脱北する前は『アイリス』という北朝鮮の重鎮を暗殺するスパイアクションドラマまで見ていました。海外の作品で豊かな暮らしを目にしていると、富を獲得したいという意識が芽生えます。そんな若者が増えて体制が維持できなくなることが、金総書記は怖いのでしょう」

拳銃を磨きながら脅迫

 実際、最高人民会議では21年9月に「青年教養保障法」、23年1月に「平壌文化語保護法」と、国民の思想や言動の自由を縛る法律が立て続けに採択され、先の排撃法と合わせて「三大悪法」とも呼ばれている。一般的な人民はこうした法律の条文にアクセスする手段を持っておらず、事実と異なる調書を仕立て上げられたとしても反論のすべがない。違法かどうかは法を執行する警察などの胸三寸だという。しかし食料品の流通などで月800ドルと「北朝鮮の上位1%に入る」ほど稼ぎ、気性も激しいキム氏は当局にとっても手強い相手だったようだ。

「テレビに韓国コンテンツが入ったUSBが差さったままの時に、検閲部隊が乗り込んできたことがありました。とっさに“令状を出せ! 法に則り執行しないで、強盗のように入ってくるのか?”とまくしたてました。海外の文化に触れていたおかげで、こういう反論が“アリ”だと何となく知っていたんです。幸い、相手は戸惑いながら引き揚げてくれました」

 その後、職場の党幹部が来てキム氏を糾弾した。負けじとやり返すと、警察署に呼び出されたという。

「取調室で、警察官は拳銃を磨きながら“涼しい監獄に入らないと根性が直らないのか”と脅してきました。刑務所送りにするならしろと強がったものの、これ以上はマズいと思い、商売で賄賂を渡してきた党幹部たちに解決を頼んで事なきを得ました。私はそれなりの生活をしていたし、法律や世間を知っていたのです。そうした知識がない弱い人たちから順に、見せしめの処刑の犠牲になるのが現実です」

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