“暗闘”続きで揺らぐ「習近平」体制…中国が高市首相の“答弁”に異常な反発を示す理由 専門家は「“反日”で団結するために利用している」と解説
第1回【今年8月に「習近平国家主席」の警護部隊と「人民解放軍」のエリート部隊が“衝突”か…専門家は「9月にはクーデター寸前の動き」も指摘】からの続き──。中国の北京には中南海と呼ばれる一画がある。中国共産党や政府の主要機関が建ち並び、日本で言えば永田町と霞が関を合わせたような地区だ。(全2回の第2回)
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【写真を見る】「黒々とした頭髪で指導力をアピール」のはずが。言われてみれば確かに“白髪”が増えた印象の習近平国家主席
つまり中南海地域は中国の心臓部であり、そんな政治の中枢で何と8月に“武力衝突”が起きたという。人民解放軍の一部が、習近平国家主席を警護する「特別勤務部隊」を“殲滅”した可能性があると複数の専門家が指摘しているのだ。
田中三郎氏は中国軍事問題の研究家として知られ、月刊誌「軍事研究」に発表する論文は常に高い評価を受けている。
防衛大学校から陸上自衛隊に進み、一貫して中国人民解放軍の調査、研究を積み重ねてきた。中国の専門家だけあり、自衛隊から外務省に出向した経験も持つ。
田中氏は「一部の報道によると、8月9日の夜明けに北京中心部の中南海地域へ11両の救急車が出動したというのです」と言う。
「私も独自に調べましたが、中南海の中で中国人民解放軍の第82集団軍の一部と、習近平氏を警護する特別勤務部隊(党中央弁公庁警衛局部隊)による武力衝突が発生したことは間違いないようです。双方合わせて5000人程度の規模。第82集団軍が機関銃を発砲し、100人以上の死傷者が出たとの情報ですが、要するに軍と警察が戦闘を交えたわけですから警察に勝ち目はありません。死傷者の大半は党中央弁公庁警衛局部隊の隊員だと考えられます」
制服組トップが習主席を“脅迫”
習主席の立場から見ると、自分を守ってくれる警備部隊が第82集団軍に攻撃されたことになる。激怒して第82集団軍の幹部を大粛清するのが当然のはずだが、事態は全く異なる展開を見せたという。
「9月29日、中国河北省の保定市から北京市に向かう高速道路で、多数の軍用車両が北京に向かったのです。軍用車両は100台を超え、装甲車、物資車、兵員輸送車、医療車などが含まれていました。中南海地域で軍事衝突を起こした第82集団軍は保定市に駐屯しています。つまり第82集団軍の一部が北京に移動したわけです。これは中南海地域への増援部隊と考えられますが、当時の中国では中国共産党の重要会議『4中全会』が10月20日から23日まで開かれる予定でした。その約1か月前という緊迫した時期に、日中に交通量の多い高速道路を第82集団軍の部隊が公然と移動したことになります。これは一種の示威行為だと見るべきでしょう。第82集団軍は習主席に対して『俺たちはクーデターを起こすこともできるぞ』と“脅迫”したわけです」(同・田中氏)
習主席が第82集団軍の幹部を粛清するどころか、第82集団軍は公然と“反習近平”の示威行為に打って出た──こんなことが現実に起きたというのだ。
台湾侵攻に反対するエリート軍人
「第82集団軍は首都防衛を担い、『北京の近衛軍』と称されています。しかも人民解放軍の大幹部であり、中央軍事委員会副主席を務める張又侠氏が第82集団軍を直轄しています。つまり8月の軍事衝突も9月の示威行為も、張氏が指揮した上での行動なのです。なぜ張氏は習主席に反旗を翻しているのか、それは彼が全人生を賭けて台湾侵攻に反対しているからです。60年代に人民解放軍に入隊し、制服組トップに昇りつめた生粋の軍人が『台湾侵攻は亡国の戦争』と批判し、台湾侵攻を命じる習主席を実質的な引退に追い込もうと精力的に活動を続けているのです」(同・田中氏)
現在の中国は経済の減速が鮮明だ。台湾侵攻など論外であり、景気回復が最優先。もし台湾侵攻に踏み切れば、それはアメリカとも一戦を交えることを確実に意味する。こんな無意味な戦争をプロの軍人として許すわけにはいかない──。
「張氏がたった一人で習主席に異を唱えたのなら、さすがに潰されるでしょう。張氏が公然と習主席を批判しても粛清されないのは、解放軍の内部では彼と考えを共にする幹部が相当な数に達しているからです。そう分析できる理由の一つとして、軍幹部の座に複数の空席が存在することが挙げられます。中国共産党中央軍事委員会は7人で構成されていますが、現在は3人分のポストが空席です。もし習主席が台湾侵攻を命じたとしても、その実務を担当する軍人がいないわけです」(同・田中氏)
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