「海図なき航海」の行方は 発足から1カ月でも内閣支持率72%の高市内閣 専門家が指摘する「問われる真価」
「比較第一党」の立場をいかに守っていくか
その後、「自民党をぶっ壊す」の掛け声とともに現れたのが小泉純一郎首相です。小泉政権の下で利益誘導型政治の解体は進みましたが、従来の基盤を失ってガタガタになった自民党は2009年に民主党に政権を奪われます。そこで2012年、第2次安倍内閣が憲法改正や安保政策など保守のイデオロギーを前面に掲げて再登板、自民党の1強体制がまたも確立しました。この安倍政権に続く菅義偉、岸田文雄両政権が安倍政権の保守から中道保守路線への修正をはかるなかで徐々に自民党優位が薄れ、石破茂政権では2024年の衆院選と2025年7月の参院選で大敗、衆参両院とも少数与党に転落しました。
このように岩盤保守層の支持基盤が弱くなり、もはや利益誘導型政治への回帰もできないなか、高市首相はふたたび安倍元首相のように保守路線の理念と、「アベノミクス」の継承ともいえる「責任ある積極財政」を掲げて支持を得たわけです。
ただ、高市内閣で懸念されるのが、第1次安倍政権の失敗です。今の高市首相と同様、身内偏重の人事で批判を浴び、その後、参院選で大敗、安倍晋三元首相の体調不良もあって政権を奪取されてしまいました。3年3カ月後、この失敗を糧に発足したのが第2次安倍政権でした。「危機突破内閣」と銘打って閣僚を重厚布陣で固め、適材適所に党役員人事を行ったこの時の安倍元首相には求心力がありました。高市首相が孤軍奮闘ではなく、第2次安倍政権のように求心力のある政権を確立できるかどうかが大きなポイントです。
そして、先の参院選での歴史的大敗後に石破前首相が連発した「比較第一党」の立場をいかに守っていくか。常に絶対的優位性を確保できないなかで他の政党と折に触れて交渉し、ある程度幅の広い政策論議をしながらも相対的な強さを維持して自身の理念をも打ち出し、かつ政党としての結束力も底上げしていく――。それが今の高市政権に求められていることなのです。
「海図なき航海が始まりました」
さらに付け加えれば、「アベノミクス」を継承した「責任ある積極財政」が第2次安倍政権の時のようにはいかない、という点も要注意です。言うまでもなく、当時と今とでは経済情勢がまったく違います。たとえば当時は1ドル=100円以下でしたし、日中の経済規模の差も当時よりかなり開いてしまっています。高市首相はこの現状に合わせた非常に難しい財政運営を強いられています。
総裁選で高市首相が選ばれた直後、私のスマホにある自民党議員から「海図なき航海が始まりました」というショートメッセージが届きました。言い得て妙だと思います。高支持率という追い風のおかげで勢いよく船出した高市政権ですが、内政面でも外交面でも何が待ち受けているかわからない旅はまだ始まったばかりです。





