「海図なき航海」の行方は 発足から1カ月でも内閣支持率72%の高市内閣 専門家が指摘する「問われる真価」

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 高市政権が発足してから約1カ月、今なお複数の世論調査で60%台後半から70%台の内閣支持率を維持している。読売新聞が11月に行った世論調査では支持率72%の高水準。これを追い風に一刻も早く解散総選挙に打って出て過半数を取り戻し、盤石な政権基盤で確実に政策を進めるべきとの声もあるが、そううまく事が運ぶかは未知数だ。歴史的大敗を経て再び保守路線を歩み始めた自民党の現在と今後について、政治学者の中北浩爾教授(中央大学法学部)に聞いた。

早期解散総選挙には不確定要素が満載

 今のところ高市政権は岩盤保守層のみならず若年層や現役世代、さらには女性支持者も多く、好調です。が、解散総選挙に臨むとなると、いくつもの不確定要素や懸念が浮かび上がってきます。

 まず、内閣の足元の脆弱さが指摘できます。身内偏重の党役員・閣僚人事に対する不満が党内にくすぶっている上、森山裕元幹事長のような調整力と交渉力のあるベテランがいないこともあり、今の自民党は高市早苗首相を中心とした結束の強いチームというより、高市首相が孤軍奮闘、必死に引っ張っているという感じがします。

 それ以上に懸念されるのが新連立政権の先行きです。自公連立の解消後、日本維新の会と組んでも依然として衆参両院で過半数に達していない苦境は変わっていませんし、維新は「閣外協力」を表明しており、政策に不満があればいつでも連立解消できる「半身の連立」とも言え、非常に不安定です。また「公明票」が期待できなくなった影響は地域によって違いますが、高市総理の人気でその穴をどれだけカバーできるかはわかりません。不確実性が高い状況です。

 さらに、台湾有事が集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」になり得るとした高市早苗首相の国会答弁を機に、ここへきて日中関係が急速に悪化してしまいました。中国政府は日本産水産物の輸入を事実上停止する姿勢を示したほか、国民の日本への渡航・留学の自粛を要請しており、すでに各業界に影響が出始めています。今後、もし仮に中国が日本へのレアアース輸出禁止に踏み込めば、自動車・ハイテク産業などへの打撃は計り知れません。高市首相の件の発言そのものについては支持する声もありますが、こうした経済的打撃が深刻化すれば、政権への支持は揺らぐことになるでしょう。

肝煎りの物価高対策にも疑問の声

 解散総選挙で争点になると思われる物価高対策についても不安材料があります。

 11月21日、高市政権の「総合経済対策」が閣議決定され、これが21.3兆円規模でコロナ禍以降、最大と話題になりましたが、この経済対策の過半を占める物価高対策に疑問の声が上がっています。主な支援内容としては子育て世帯に対する給付(18歳以下の子ども1人につき2万円)と電気・ガス料金の補助(来年1~3月で1世帯につき約7000円)、そして自治体が柔軟に使い道を決められる「重点支援地方交付金」の拡充によるおこめ券やプレミアム商品券配布の推進などですが、これでは夫婦共働きで子どもがいない世帯などに対する支援は薄くなるし、米価高騰で価値が目減りしているおこめ券がどれほど家計の負担軽減につながるかも不透明です。「責任ある積極財政」で大規模な経済対策を打ち出しても、肝心の物価高対策に実質的な内容が伴っていないという点を、野党は突いてくるのではないでしょうか。

 こうしてみると、まだ高市政権の真価が問われるのはこれからであり、高支持率が維持できているからといって、早期の解散総選挙で自民党が再び議席過半数を取り戻すのは容易ではありません。では今後、自民党はどのような道を歩んでいけばよいのか、これまでの歴史も振り返りながら考えてみたいと思います。

 自民党は高度経済成長の真っ只中で公共事業や補助金などによって利益を分配し、業界や地域とのつながりを強くすることで選挙基盤を盤石とし、利益誘導型の政治を生み出しました。そして1980年代後半から噴出した「政治とカネ」問題とバブル崩壊で限界を迎え、内部分裂で1993年に政権を失い、翌年には社会党、新党さきがけとの3党連立で政権に復帰、1999年からは公明党と連立を組んで政権の基盤を固めました。

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