なぜフジは大晦日に「新しいカギ」をぶつけるのか? 不祥事に揺れる局が“再生”を託した異例の編成の狙い

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ロケ企画が人気

「新しいカギ」は、初期にはスタジオでのコントやゲームを中心にした企画が多かった。しかし、近年では「学校かくれんぼ」など、一般の生徒を巻き込むようなロケ企画が人気を博していて、それが番組の柱になっている。子供を含むファミリー層が楽しめる番組として定着しつつある。

 大晦日の夜は、普段はテレビを見ていない人でも番組を目にする機会が増えるため、局としては勝負どころである。裏には「NHK紅白歌合戦」という伝統のあるビッグコンテンツが控えていて、視聴者の大半はそこに持っていかれる可能性が高いわけだが、その上でどういう指針で番組を作るのかを考えなければいけない。

 テレビ離れが進む若い世代にリーチできるコンテンツは局にとって貴重な資産である。大晦日という特別な日に若者を引きつける番組を持ってくることで、普段テレビを見ない層にもアプローチできる。また、番組の笑いのスタイルが比較的ライトで、難しい知識や前提を必要としないため、誰でも気軽に楽しめるという点も大晦日特番としては理想的である。フジテレビは、ファミリー層と親和性の高い人気番組の「新しいカギ」をぶつけることで、幅広い視聴者を取り込もうとしているのだろう。

 さらに重要なのは、フジテレビがこの番組編成を通じて世間や社会に対して明確なメッセージを発信しているということだ。マスメディアとしては致命的な不祥事が続き、陰鬱なムードが漂う中で、大晦日の特番として「新しいカギ」を据えることで、「フジテレビはまだ攻める力を持っている」「若手芸人を中心に新しい笑いを提示していく」という姿勢を示した。

 フジテレビが「新しいカギ」の生放送特番を大晦日に放送するのは、単に人気のある番組を持ってきたということではなく、この番組に局の未来を託すという意味合いを持っている。家族で楽しめて、局の若返りの象徴としても掲げられる番組。「新しいカギ」は今のフジテレビにとって再生のシンボルとして機能する存在なのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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