生成AIのせいで“妖怪川柳コンテスト”が終了…ゲーム会社の採用試験では「もはや目の前で絵を描かせるしかない」事態に

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面接試験では目の前で絵を描かせる

 生成AIは企業の人材採用にも影響を及ぼしているという。以前から、デザイン会社やゲーム会社の採用試験では、ネットで上手い人の絵を拾ってきて“自作”と偽る“ポートフォリオ詐欺”が横行していた。それが今や、生成AIで出力したデザインやイラストを提出し、自作だと発言する例が相次いでいるそうだ。

 中堅ゲーム会社でグラフィック関連のチーフを務め、クリエイターの採用にも関わる社員のB氏がこう打ち明ける。

「生成AIの絵を自作だと発言する人が多く、実際にそういった人を採用してしまい、戦力にならなかったトラブルが何件もありました。そこで、当社の採用試験は、目の前で実際に絵を描かせて、実力を確かめるスタイルに変更しています。採用担当としては大変な手間ですし、時代がさかのぼったような感覚ですが、同じことをしている企業はいくつかあるそうです」

 ところが、B氏の会社の上層部からは、「クリエイターを採用しなくても生成AIで事足りるのではないか」「生成AIを使いこなせる人を採用すべきだ」などの意見も聞かれるという。それに待ったをかけているのは、自身もイラストを描き、キャラクターデザインを務めているB氏なのだが、徐々に社内での立場は弱くなっていると話す。

「私も生成AIを補助的なツールとして現場で使用しています。しかし、魅力的なキャラクターやグラフィックをゼロから生み出せるのは人間のクリエイターだという思いが、私には強い。だからこそ、上層部には才能ある人材を採用すべきだと伝えているのですが、会社は生成AI推進に舵を切っている。私の進言をどこまで理解してもらえているのか、不安です」

人間相手のリテイクはパワハラだったのか

 前出のA氏やB氏のように、「人間こそが優れた創作物を生み出せる」という意見とは裏腹に、生成AIを使った創作物は至るところで目にするようになりつつある。とりわけ、地方自治体のパンフレットやチラシには、生成AIを使ったものが多い。人材難に悩まされている地方自治体にとっては、タダで、早く、契約書やライセンス料も不要な生成AIは唯一無二の便利なツールなのだろう。

 大企業が生成AIを使う事例も目に見えて増えた。実際、長年付き合いのあったデザイン会社が、大企業から“切られる”例がじわじわと生まれてきているようである。ちょっとした告知のチラシ程度であれば、生成AIで十分だという考えなのだろう。それは経営の合理化という意味では正しい判断なのかもしれない。

 一方で、デザイン会社からは恨み節が聞こえる。東京でデザイン事務所を主宰するC氏は、今年、長年付き合いのあった企業から一方的に仕事を切られてしまったという。デザインの業務を生成AIに代替されてしまった形だが、目にしたポスターのクオリティはとんでもなくお粗末な代物だったという。

「びっくりしました。足が3本あったり、指の形がおかしかったり、人物の表情も明らかに変なのです。これまで私にはさんざんリテイクを出してきたのに、こんな適当な絵でもいいのかと、ショックを受けましたね。今までの鬼のように出してきたリテイクはいったい何だったのかと、自信を喪失したのは確かです」

 実際、こういった話は各所で聞かれる。人間相手だと何度もリテイクを出しまくってきた企業が、生成AIなら常識では考えられないようなデザインであっても、GOサインを出してしまうのだ。「今までのリテイクは、単なるパワハラだったのではないか」と、疑念を持つデザイナーは少なくないようである。

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