生成AIのせいで“妖怪川柳コンテスト”が終了…ゲーム会社の採用試験では「もはや目の前で絵を描かせるしかない」事態に
11月8日付の日本海新聞の報道によると、漫画家・水木しげるのゆかりの地、鳥取県境港市で長らく開催されてきた「妖怪川柳コンテスト」が、第20回を最後に終了することが決まったという。主催者である境港観光協会はその理由を、生成AIで川柳が簡単に作れるようになってしまい、人間の創作物と見分けることが難しくなったためと発表している。
今年の新語・流行語大賞にChatGPTの愛称「チャッピー」がノミネートされたように、今や生成AIは一般人の間にも急速に普及、浸透し、誰もが手軽に文章や絵を出力できるようになった。そして、境港観光協会が言うように、そのクオリティも人間が作ったものなのか、生成AIが出力したものなのか、もはや見分けがつかないレベルに達しつつある。
もっとも、生成AIが影響を及ぼしているのは、地方自治体のコンテストだけではない。その生成物に対してどのように対応すべきか、様々な意見が飛び交っているのは、コンテンツ業界、とりわけ漫画や小説を出版する出版社である。編集者の間からは、「コンテストなどの公募が成り立たなくなる可能性がある」「才能のある新人の発掘に支障がでてくる」という声が聞かれる。【文・取材=山内貴範】
【写真】「川柳コンテスト」終了で注目を受けた鳥取県境港市のあちこちにある妖怪オブジェ
生成AIかどうかを見分けるのが負担
XやInstagramなどのSNSには、生成AIを使用して生み出された小説やイラストが日々、多数投稿されている。従来は難しいとされていた漫画も生成AIで出力することが可能になりつつあり、少なくともSNSにあふれているような、絵がシンプルでエッセイ風の漫画であれば十分に代替できるレベルとなった。
結果、イラストや写真のコンテストに生成AIで出力した画像が応募され、賞が取り消される騒ぎはたびたび発生している。こうした状況を受けて、11月18日、小説や漫画の投稿サイト「アルファポリス」の運営を行うアルファポリスは、同社が開催するコンテストで生成AIを使った作品の投稿を禁止すると発表した。
生成AI対策は、出版社や企業が行うコンテストや新人賞でも避けられない問題となっている。同時に、コンテストの在り方も、転換期に差し掛かっているといえる。あらゆるコンテストは性善説に基づいて運営されてきたが、それを考え直す必要がありそうなのだ。大手出版社の漫画編集者A氏は、こう打ち明ける。
「内容の良し悪し以前に、生成AIかどうかをまず見分けないといけないのですから、極めて深刻な事態。同時に、日本のコンテンツ産業において、危機的な状況といえます。生成AIがここまで普及してしまうと公募が成り立たなくなりますし、もっとも危惧されるのが、若手の優秀なクリエイターを発掘する場が失われてしまうことです。
その一方で、社内にはなんと、“生成AIで出力した漫画を募るコンテストをやるべきではないか”という意見もあります。企業としては生成AIが描いた漫画でも、利益が出ればそれでいいのかもしれません。しかし、私は人間が生み出すような斬新な創作物が、生成AIによって生まれるとは思えないのです」
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