「瀬川の歯の色」「KYすぎる蔦重」 高評価「べらぼう」にもあった残念な場面ワースト5
好感度が高い『べらぼう』の問題場面
間もなく大団円を迎える『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、近年のNHK大河ドラマのなかでは、史実を大切にする姿勢が一貫していて好感度が高かった。
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エンターテインメントなのに「史実」を問う必要があるのか、という声は承知している。しかし、大河ドラマが広く「歴史ドラマ」として認識されている以上、史実をはじめ、描かれている時代の状況や考え方とかけ離れてしまえば、歴史への理解どころか誤解が拡散されることになる。しかも子供にもファンが多いから、無視できない問題になりうる。
だから、『べらぼう』のように、ドラマの筋書きが史実や時代思潮を織り込みながら組み立てられているとホッとする。
とはいっても、なぜこうしたのか、と思わざるをえない場面もあった。そう描くのも仕方ないが史実はそうではない、という場面や、こう描いてしまうと人物の魅力が失われる、と思われる場面もあった。
そこで終幕を前に1年を振り返り、問題があると思われた場面を5つ挙げてみたい。可能であれば、すでに発表したベスト5記事(【べらぼう】いよいよ終幕へ 錦絵本のはなむけ、亡き妻を描写…緻密なストーリーのなかでも特筆すべき名場面ベスト5)も参照していただけるといい。どんな場面がどんな理由で「問題がある」のか、良かった場面と対照したほうがわかりやすいからである。
瀬川の歯は白くなかった
『べらぼう』の前半でとくに人気があったのは、吉原の松葉屋の花魁、瀬川(小芝風花)が絡んだ場面だった。たとえば第9回「玉菊燈籠恋の地獄」(3月2日放送)。瀬川は鳥山検校(市原隼人)の身請けの申し出を受けると決めた。だが、彼女への気持ちに気づいた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)は、「後生だから行かねえで。俺がお前を幸せにしてえの」と瀬川に哀願した。
瀬川の年季が明けるまで待つと蔦重はいい、2人は将来を誓い合ったが、瀬川が身請けを断ると、松葉屋は2人の仲を察した。そして蔦重に、瀬川が客の「相手」をするところを見せ、「お前さんはこれを瀬川に年季明けまでずっとやらせるつもりか? 客をとればとるほど命はすり減っちまう」と伝えた。蔦重は瀬川を逃亡させようとするが、折しも別の女郎が逃亡に失敗して激しい折檻を受ける。松葉屋の女将いね(水野美紀)は瀬川にいった。「ここは不幸なところさ。けど、人生をガラリと変えることが起こらないわけじゃない。そういう背中を女郎に見せる務めが、瀬川にはあるんじゃないのかい?」。
一連の場面には吉原が集約されていた。年季まで勤めれば命がすり減るが、逃亡しても恐ろしい折檻が待っている。人生を変えるには身請けしかないが、多くの女郎には夢のまた夢。2人の恋物語を通して、吉原をここまで描写するとはさすがで、「ベスト」の場面に入れたいほどだが、ここはあえて、『べらぼう』で描かれた瀬川のルックスが、ひとつだけ史実と違う点を示したい。それは「お歯黒」にしていなかった点である。
江戸時代、女性は結婚するとお歯黒にするのが一般的だった。武士の娘はもっと早かったが、蔦重の時代の庶民は、結婚前後に黒く染めた。要するに、成人するための通過儀礼のひとつがお歯黒だった。江戸では岡場所の私娼たちはお歯黒にしておらず、吉原でも芸者はお歯黒にしなかったが、女郎はお歯黒だった。未婚なのにお歯黒にしたのは、一晩だけ客の妻になる、という意味がこめられていたともいわれる。
じつは私自身、史実どおりにお歯黒にすべきだったとは思わない。瀬川の口元から覗く歯が真っ黒だったら、視聴者はげんなりしたのではないだろうか。私も例外ではない。お歯黒にしていなかったことを5位に挙げるが、それはあくまでも、この点は当時のルックスは違ったと知ってもらうためである。
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