「ばけばけ」「じゃあつく」ヒットの背景 高石あかり、夏帆…なぜ今、コメディエンヌが時代を席巻するのか
世界の共通の認識
コメディエンヌは、運動神経が良いほうが有利なのは世界の共通の認識。「ホリデイ」(2006年)などで知られる大物コメディエンヌのキャメロン・ディアス(53)は運動神経抜群なことで知られる。共演したトム・クルーズ(63)が激賞したほどのレベルである。
「巡るスワン」の脚本はバカリズム(50)が担当する。日本テレビのSFコメディ「ブラッシュアップライフ」(2023年)、同「ホットスポット」(2025年)を書き、ヒットさせたのは知られている通りである。
バカリズム脚本の大きな特徴は、日常生活の中に潜む人間のおかしさを拾い上げ、物語に生かすこと。なんとなくやってしまう恥ずかしい仕草やつまらない見栄などである。体を使ったギャグやナンセンス系の笑いは比較的少ない。
バカリズム作品に欠かせないコメディエンヌというと、「じゃあ、あんたが作ってみろよ」がヒット中の夏帆(34)だ。フジテレビのコメディ「かもしれない女優たち2016」(2016年)で初めて組んで以来、バカリズム組の一員と化している。
日本テレビ「架空OL日記」(2017年)では、バカリズムの同僚で親友の銀行員に扮した。勤務時間外になると、愚痴や上司の悪口が止まらなくなるような女性だった。
バカリズムが食堂で「副支店長の口が臭い」と貶すと、「ホント臭いよね。口からウ●コの臭いがする」と言った。それでも不思議とあまり下品にならないのが夏帆の強み。10代のころの清純派で善人というイメージがいまだ強いためか。
得な人である。「ホットスポット」では遊び半分で働いているようにも見えるホテルの従業員役で、人をおちょくっているようなところもあったが、視聴者に嫌われなかった。
この強みはほかの作品でも生かされている。「じゃあ、あんたが作ってみろよ」もそう。演じている主人公・鮎美は決して常識人ではない。だが、夏帆が演じると、嫌がられない。
鮎美は知り合って数日の美容師・渚(サーヤ)に平然と同居を頼んだ。もう1人の主人公・勝男(竹内涼真)と自分から別れながら、ちゃっかり復縁を考え始めている。憎まれず、嫌われないのも才能。これもコメディエンヌにはプラスだろう。
「巡るスワン」の森田以外の出演陣が発表されるのは先のこと。夏帆に出演要請が行われる可能性は極めて高いと見る。日常を切り取るバカリズムの作品は、平凡な人も演じられる夏帆のようなタイプが必要だ。森田の友人役がハマるのではないか。
日本のドラマ界、映画界ではコメディエンヌの地位があまり高くない時代が長く続いた。日本の3大女優と呼ばれた田中絹代さん、原節子さん、京マチ子さんが1960年代までコメディとほぼ無縁だったせいもあるのだろう。
その後も「キネマ旬報ベストテン」で主演女優賞に輝いたコメディエンヌは少なかった。故・太地喜和子さん、桃井かおり(74)、田中裕子(70)、宮本信子(80)くらい。
一気に増えたのは2000年代に入ってから。藤山直美(66)、宮沢りえ(52)、寺島しのぶ(52)、松たか子(48)、安藤サクラ(39)、岸井ゆきの(33)趣里(35)、河合優実(24)。もうコメディをシリアスより格下と捉えるような風潮は一切ない。
2011年3月に東日本大震災が起きたとき、被災地だけでなく日本中が悄然とした。一方で震災から1か月後に始まったドラマが大ヒットする。フジテレビのホームコメディ「マルモのおきて」だ。世帯視聴率は最高23.9%に達した。
震災から2年後、被災地・宮城県出身の宮藤官九郎氏(55)が書いた朝ドラが社会現象化する。言わず知れた「あまちゃん」である。
今になって思うと、作風をコメディにしたのは宮藤氏の深慮だったのだろう。コメディが強く求められる時期はある。





