追い詰められているのは「高市総理」ではなく「習近平」? 対日強硬姿勢は「軍の混乱」「経済悪化」「健康不安」を隠す“虚勢”の可能性も
統率力の弱体化
もっとも、高市総理は国会答弁で、台湾有事の際の具体的な対応策については一切触れていない。このため、習氏には、高市総理に抗議をするだけにとどめるなど、穏便な対応を取る選択肢もあったはずだ。しかし前述のような強硬手段を取ったのは、習氏が台湾統一の要となる中国軍を掌握し切れていないことなど、自身の統率力の弱体化を隠すためだった可能性も考えられる。
例えば、中国国防省は10月17日、軍高官9人の共産党籍を剥奪する極めて重い処分を発表した。とりわけ軍の制服組ナンバー2の何衛東・中央軍事委員会副主席や対台湾軍事作戦を知り尽くしている東部戦区司令官だった林向陽氏も党・軍籍を剥奪されたことは衝撃を与えた。さらに、「福建閥」の重鎮で、軍政治工作部主任(中央軍事委員)として人事を牛耳っていた苗華氏も粛清対象に含まれるなど、習近平軍事体制の屋台骨が揺るぎかねない事態と言ってもよい。彼ら3人は習氏の最側近であり、中国軍の台湾侵攻作戦の要となる軍事指導者だっただけに、失脚が侵攻能力に大きく影響することが考えられる。
また、先月開催された共産党の重要会議、第20期中央委員会第4回全会(4中全会)では軍出身の中央委員42人のうち27人が欠席したことが分かっている。これは軍出身の中央委員の6割超に当たり、22人は軍階級最高位の上将だっただけに、習氏が軍を掌握しきれていないことを如実に示している。このため、習氏は台湾統一を実現するには軍の陣容の立て直しを急ぐ必要があるなか、ほぼ同時期に高市総理が国会で「存立危機事態」の答弁を行ったことも重なって、日本への対応がエスカレートしたとも考えられよう。
経済の悪化
軍の問題に加えて、習氏を窮地に追いやっているのは、中国経済の悪化だ。10月の4中全会では26~30年の第15次5カ年発展計画の優先事項の概要を発表したが、5カ年計画の数値目標については「合理的な範囲を保つ」として、具体的な数値を示さなかった。この理由について、国営新華社通信は、中国内の需要は好調だが、外需については「製造業の合理的な比率を維持し、先進的な製造業を基幹とする近代的な産業システムを確立すべきである」と指摘。米中対立の激化や世界的な景気低迷などの理由で輸出が振るわないことなどから、来年からの5カ年計画の具体的な数値目標を示すことができないと説明している。これは極めて異例だ。
実際、中国国家統計局が発表した10月の景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)は49.0と前月から0.8ポイント悪化し、景気の拡大・縮小を判断する節目の指数50を7カ月連続で下回った。これは不動産不況に伴う消費の低迷などが企業心理の重しとなっているからだ。輸出向けの受注や雇用指数も前月を下回り、節目割れの水準が続いた。企業規模別では、大企業の景況感が1.1ポイント低下して49.9となった。これは米中関係が不安定なことが影響している。
日本の対中輸入も減少しており、昨年の日本の中国からの輸入は前年比3.9%減の1671億1943万ドルと、過去最高を記録した2022年から減少に転じた23年以来、2年連続で減少した。今年も中国の“対日制裁”の影響で日中貿易関係が悪化し、中国経済に影響することが考えられる。
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