原宿に来た2人の家出少女 雑踏で“白い手”に肩を触られ…翌朝、ホテルから幼馴染は消えていた【川奈まり子の百物語】

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【前後編の前編/後編を読む】「幼馴染は白い怪物に食べられてしまったに違いない」中2少女の衝撃の告白 神隠しにあった14歳の行方は

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。今回は、女子中学生の2人組が家出を決行するも1人が行方不明になってしまい……。

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 午前9時のハンバーガーショップで、にぎやかなBGMとフライドポテトの脂っこい匂いに包まれて、リナ(仮名、以下同)は所在なさげに身を縮めていた。

 ときどき視線を左右に走らせたり、ストローの袋を意味もなく千切ったりしているようすからも、彼女が緊張していることが読み取れた。

「せっかく買ったんだから、食べようよ」

 穂乃花がそう声を掛けると、リナは「うん」と応えてハンバーガーを小さくひと齧りし、

「そっちこそ食べなよ」

 と不機嫌そうに口を尖らせた。

 食欲がないのは穂乃花も同じで、原因はわかり切っていた。

 2人は家出中で、今まで来たことのない東京に到着して間もなかったのだ。
 
 ゴールデンウィークの終盤に、穂乃花は幼なじみのリナと2人で、高速バスで約6時間もかけて家出してきたわけだが、そんな思い切ったことした理由は漠然としていた。

 リナが同居する祖母のタンス預金を盗んで、50万円という大金を手にしたのが、きっかけと言えばきっかけだった。

少女たちの家出

 だが、リナが家を出たいと思うに至った原因は、粗暴な父親や怒鳴る母親、年を追うごとに貧しくなってゆくばかりの暮らしにあったのであろう。

 物心がついてこの方の長年の不満が積もり積もっていたから、リナは軍資金を手に入れた途端に、家出なんてことを思いついてしまったのである。

 穂乃花の方も、家の状況は似たり寄ったりだった。

 そこで、すぐにリナに同調して、家出に乗り気になった次第だ。
 
 2人は中学2年生。14歳になったばかりだが、化粧をすれば17~8歳に見えないこともない……と、本人たちは信じていた。年齢をごまかしてアルバイトをすれば、なんとかなると考えていたことも、家出のハードルを下げた。
 
 さらに、図書館のパソコンからAmazonに登録し、コンビニ支払いのコンビニ受け取りでプリペイドSIMのスマホを購入するという、親の承認やクレジットカード無しにスマホを手に入れる裏技を巧いことやってのけたせいで、自分たちは大人並みに賢いと思い込んでしまったことからも自信を得た。

 しかし、いざ始めてみると、現実は甘くなかった。
 
 高速バスを新宿で降りたときには、窮屈な座席で座りっぱなしだったせいで腰が痛かったし、ハンバーガーショップで休み、山手線で原宿へ行ってみたが、期待していたような面白いことは一つもなく、単に、経験したことのない凄まじい人混みに酔って気分が悪くなっただけだったのだ。

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