【ばけばけ】ヘブンが異常なほど大切にする「写真の女性」 トキは到底およばない?2人の深い関係性
噴出するビールから真っ先に守った写真
レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の文机の上には、いつも女性の顔写真が入れられた写真立てが置かれている。
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NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第8週「クビノ・カワ・イチマイ「(11月17日~21日放送)では、松野トキ(髙石あかり)はヘブンから「Beer」を買ってきおいてほしいと頼まれ、最初はそれがなんだかわからず、ようやく舶来製品を売っている山橋薬舗で手に入れ、持ち帰った。ところが、瓶を振り回しながらヘブンのもとに運んだため、栓を抜いた途端に中身が噴き出してしまった。
このとき、ヘブンが真っ先に抱きかかえて守ったのが、文机の上にあるその写真立てだった。それからしばらくしたある日、ヘブンの家に同僚の錦織友一(吉沢亮)のほか、その弟や生徒たちが集まった。ヘブンは自分についてのクイズを出し、トキも参加してみな次々と正解したが、錦織だけは正解できない。そこで錦織はヘブンに「それを問題にしてもらえませんか。その方が奥様か、ご姉妹か、それとも」と英語で求めたが、トキが口をはさんだ。「このお写真のことは、伺わないほうがよいかと」。
ビールを噴出させてしまったとき、ヘブンがこの写真を大事にしていることがわかったので、トキはそういう配慮をしたのだ。こうして自分の思いを代弁してもらったヘブンは、トキへの信頼感を急速に増していく。
写真に映っている女性は、シャーロット・ケイト・フォックスが演じるイライザ・ベルズランド。ヘブンの元同僚の記者だが、どうしてヘブンはこの女性の写真を、それほど大事にしているのだろうか。
間柄に機微がある元同僚
イライザ・ベルズランドのモデルは、エリザベス・ビスランド(1861-1929)というアメリカ人女性で、おそらくは、ヘブンのモデルであるラフカディオ・ハーン、すなわち後の小泉八雲(1850-1904)が生涯にわたり、もっとも厚い信頼と、さらには情愛を寄せた女性だった。
ルイジアナ州の大農場に生まれたビスランドは、南北戦争で疎開中に生活が困窮し、文筆活動をはじめた。ハーンの書いた新聞記事に感銘を受けたそうで、ニューオリオンズに赴いてタイムズ・デモクラット社に入社。そのとき同社の文芸部長だったのがハーンで、ともに働き親交を結んだ。
ビスランドは日本に関してハーンの先輩だった。その後、ニューヨークに移住した彼女は、雑誌『コスモポリタン』の編集者だった1889(明治22)年、雑誌の企画で世界一周旅行に旅立った。その際、サンフランシスコから太平洋を渡って横浜に着き、日本には2日間滞在して、大いに魅了されたという。旅行記は『コスモポリタン』誌に連載され、日本滞在記は写真入りで12ページにわたって掲載された。
1890(明治21)に来日したハーンは、来日前に『古事記』の英訳を読んで日本への思いを募らせたという逸話が名高いが、ビスランドの日本滞在記にも背中を押された。それを読む前にも彼女から直接、文明社会に汚染されていない日本がいかに清潔で美しいか、聞かされていたようだ。
ハーンがトキのモデルの小泉セツと結婚したのは1891(明治24)年で、同じ年にビスランドもニューヨークで、弁護士のチャールズ・ウェットモアと結婚した。こうして遠く離れた地でそれぞれ所帯をもった2人だが、その後も多くの書簡を交わしている。ハーンの曾孫である小泉凡氏は、「ふたりの間柄には機微がある」とする。『セツと八雲』(朝日新書)からその部分を以下に引用したい。
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