宮崎あおい、平手友梨奈、田中裕子…女優たちが個性を輝かせた「本にまつわる物語」といえば【晩秋の映画案内】

エンタメ 映画

  • ブックマーク

 日中の気温が徐々に下がり、夜もすっかり長くなった今日この頃。安心できる温かい自宅でお気に入りの本を開くにはもってこいの季節だ。書籍編集、文学賞、本棚、小説の共作、古本屋……。映画解説者の稲森浩介氏が、本好きに響く「本にまつわる映画」を紹介する。

 ***

言葉の海を渡る人々

〇「舟を編む」(2013年)

 出版社の辞書編集部を舞台に、新しい辞書の編纂に人生を捧げる人々の物語。原作である三浦しをんの同名小説は、後にアニメとドラマにもなった。

 玄武書房の営業部・馬締光也(松田龍平)は、言葉への類まれな感覚を買われ、辞書編集部に引き抜かれる。一つの辞書を完成させるために、長い歳月をかける編集者たち。言葉を一つひとつ採集し、語釈を付け校正を重ねる地道な作業風景と、彼らの人間模様が丹念に描かれる。

 宮崎あおいが演じたのは、馬締が下宿する大家の孫娘で、板前修行中の林香具矢。馬締の不器用で真っ直ぐな情熱を深く理解し、後に妻として彼を支える包容力のある女性だ。「馬締さんというすごく真っすぐな人を受け止める、器の大きな人だなと思って演じました」と語っている。

 辞書編集部に配属される若手社員・岸辺みどりに黒木華。ファッション誌編集部からの異動で、当初はふてくされていたが、次第に「言葉」の魅力に目覚めていく。この作品で注目された黒木は、翌年の「小さいおうち」で大きく羽ばたくことになる。

 この作品で辞書の面白さに気がついた人にお薦めの本がある。一冊は『言葉の海へ』(高田宏著、新潮文庫)。わが国初めての近代的国語辞書「言海」を完成させた大槻文彦を描いている。もう一冊の『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』(佐々木健一著、文春文庫)は、『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』を編んだ2人の生涯をたどったノンフィクションだ。

「船を編む」で編纂される辞書名は『大渡海』。まさしく言葉の海を渡った人々の人生が尊く思える作品だ。

次ページ:女子高生作家、芥川賞・直木賞を同時受賞する

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。