「主題歌はまず大物ミュージシャンありき」という朝ドラの“常識”は見直してもいいのではないか
大物の主題歌への違和感
「笑ったり転んだり」は人気が高まっているものの、オリコンの週間デジタルシングルのランキングでは20位(11月17日付)。売上データだけを基準にしたら、紅白への出場は難しかったのではないか。それでも「紅白出場はNHKの身びいき」といった声は聞こえてこない。歓迎ムード一色と言っていい。
この作品が好きな人のみならず、「ばけばけ」のファンにも親しまれているからだろう。最近の主題歌を後押しする存在は、朝ドラ愛好家より、歌っているアーティストのファンのほうが目立っていた。大物アーティストたちが歌っていたからだ。
一方で大物が歌う作品の中には主題歌なのか、ただの新曲なのか、よく分からないものもあった。「笑ったり転んだり」は違う。これほど物語の内容が反映されている作品は見当たらない。まさに主題歌である。
大物による主題歌はアーティスト側にも朝ドラ側にも大きなメリットがある。アーティスト側にしてみると、新曲を毎朝、プロモーションしてくれるようなものだ。朝ドラ側にすれば、物語の冒頭から視聴者を惹き付けられる可能性が高まる。
しかし、ドラマとの関係性がよく分からない主題歌だと、興ざめとなる視聴者もいる。前作「あんぱん」の主題歌だったRADWIMPSによる「賜物」も違和感などをおぼえた人が一定数いた。抗議の声まで上がった。
このため、放送開始後にも関わらず、制作者が特定のマスコミに対し、歌詞について説明した。制作者は放送に伝えたいことのすべてを収めてあるはずなので、あとからの補足は奇異に映った。
空前絶後の大ヒット作「おしん」(1983年度)は主題歌なし。インストゥルメンタルのテーマソングだった。それでも視聴者の心を掴み、中高年は今でもこの曲が流れると、しんみりする。作曲したのは坂田晃一氏(83)。西田敏行さんの「もしもピアノが弾けたなら」などを手掛けた人だ。
平成の大人気作「あまちゃん」(2013年度前期)もインストゥルメンタル。作曲したのは世界的に活躍するミュージシャン・大友良英氏(66)。温かく愉快なこのテーマソングは広く愛された。大友氏は知的障がい者と健常者がともに音楽を楽しむ活動「音遊びの会」のサポーターとしても知られる。
「主題歌はまず大物ミュージシャンありき」という最近の朝ドラの常識はそろそろ見直してもいいのではないか。朝ドラによってヒロインがスターになり、主題歌を歌うアーティストがメジャーになったら、痛快だ。
「ばけばけ」は17日放送から第8週。焦点はトキの家庭の事情から、トキとヘブンの日々に移る。2人の物語の幕が上がる。
ますます「笑ったり転んだり」が生きる。
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