【ばけばけ】吉沢亮演じる英語教師は「小泉セツ」をどうハーンの妻にしたのか
士族のトキに立った白羽の矢
松江中学の教壇に立つようになったレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)は、宿泊先の花田旅館を出ることになった。女中のうめ(野内まる)は目に異常をかかえているのに、旅館の主人の花田平太(生瀬勝久)は、いくらいっても医者に見せようとしない。片眼が不自由なヘブンは、目が悪いのを放置するのが許せないのだ。ヘブンは借家を探してほしいと、同じ中学の英語教師の錦織友一(吉沢亮)に頼んだ。
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NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第6週「ドコ、モ、ジゴク」(11月3日~7日放送)はこうしてはじまった。だが、日本語がままならない独身の外国人が借家に1人で住むのは難しい。ヘブン自身、身の回りの世話をしてくれる人間が1人ほしいと要求し、錦織は島根県知事の江藤安宗(佐野史郎)に相談し、承諾された。
では、だれがヘブンの世話をするのか。遊廓を出たいなみ(さとうほなみ)が手を挙げたが、百姓の出身であることを理由に断られてしまう。そこで錦織は、トキ(髙石あかり)に白羽の矢を立てた。
「ヘブン先生の、女中になってほしい」と、錦織はトキに伝えた。侍に憧れているヘブンは武家の嗜みを身につけた士族の娘を望んでいるというのだ。「月20円出すとヘブン先生はいっている。失礼だが、君の家は貧しいと聞いている。決して悪い話ではないと思う」と錦織。明治20年代の20円は、いろいろな換算方法があるが、仮に当時の1円が現在の2万円程度だとすれば、40万円程度。たしかに悪い金額ではない。
それでもトキは怒って断った。最大の理由は、外国人の女中を務めることとは一般に、妾になること、当時の蔑称でいえば「ラシャメン」になることだと考えられたからだった。その後、錦織は再度トキの家を訪ねたが、トキの返答は同じだった。
「私は八雲の許に嫁ぎました」
だが、錦織にふたたび頼まれる直前、トキは信じがたいものを見ていた。松江藩の重臣の奥方だったトキの実母の雨清水タエ(北川景子)が、道端で物乞いをしていたのである。その後、タエの息子、つまりトキの実弟にあたる三之丞(板垣李光人)からも、雨清水家の現況を聞かされ、トキはついにヘブンの女中になる決心をした。
じつは、ヘブンのモデルのラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と出会った経緯について、トキのモデルである小泉セツは、あまり語っていない。ハーンのアシスタントだった三成重敬がハーンとの思い出を聞き書きした『思い出の記』にも、その記述はない。セツが晩年に東京朝日新聞の記者に語ったのは、以下の話だった。
「その年(註・明治23年、1890年)の十二月に私は八雲の許に嫁ぎました。私の実家は古い士族ですが父は亡くなっていましたし別に反対を唱える親戚もなかったのです。故人の勤めていた中学の西田さんという方が仲に立たれて話をまとめて下さったのでした」
「西田さん」、すなわち西田千太郎が『ばけばけ』の錦織友一のモデルである。この西田については『思い出の記』にこう記されている。「(ハーンは)中学の教頭の西田と申す方に大層お世話になりました。二人は互いに好き合って非常に親密になりました。ヘルン(註・ハーンのこと)は西田さんを全く信用しほめていました」。
ただし、ハーンとの出会いについてのセツの談話には、いろいろ辻褄が合わないところがある。長谷川洋二著『八雲の妻 小泉セツの生涯』などを参照しながら、わかるかぎりで2人の「出会い」をひもといてみたい。
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