売掛金を払うため「ドラッグの運び屋」になった美貌の女子大生…「密輸組織」から送りつけられた“1枚の画像”に震え上がった理由

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「お姉ちゃん、お願いだからお金を振り込んで」

 それから約2週間後の深夜に、再びシーラから悲壮な声で電話があった。

「いまレナから電話があった。でも、知らない番号だった。慌てた口調で“プノンペン(カンボジア)にいるの。ち、ち、ちょっとお金がなくて、クレカも限度額までいっちゃって。お、お、お姉ちゃん、お願いだからお金を振り込んで……”と言うと、一方的に切れちゃった。息も上がっていたし、あの吃音は妹が怯えている証拠。“すぐに領事館等に飛び込みなさい。援護してくれるから”とは伝えたけど……。兄さん、どうしよう!」

 筆者はシーラとともに外務省領事局や在外公館、また、捜査機関や保険会社への相談を進めることとした。所在がわかれば親族に連絡してくれるはずだ。しかし、いまだ有効な情報は届かず、レナからの連絡も途絶えたままだ。

 カンボジアには中国系の国際犯罪組織の拠点が多数あるとされる。今年8月上旬には、SNSで高収入の闇バイトに応募した22歳の韓国人大学生が拷問を受けた上に殺害されている。AFPなどの報道によれば、闇バイトに応募した韓国人の若者が犯罪組織に拉致されたり、人身売買の対象にされたりしているとのことだ。

 カンボジア周辺では2025年だけでも300人以上が行方不明、または拘束され、うち約80人の安否が確認できていないという。そのなかに日本人の被害者も存在することは読者も知っての通りだ。日本人は“勤勉”ということで身柄を高値で取引され、ひとり連れて行くと紹介料として約600万円が支払われるとの話もある。さらに、こうした組織は、薬物の密輸やマネーロンダリングにも大きく関与していると現地の捜査官は話している。レナと利久斗が巻き込まれている可能性は否定できない。

 第1回の記事で紹介したが、社会の変化と情報技術の進化に伴って、いま「若者」「ドラッグ」「不良外国人」、そして「アジア諸国の犯罪拠点」といったバラバラの要素が、急速に接近しつつある。結果、これまでは予想もできなかった事態を招いている。レナの密輸事件もそのひとつだろう。皆さんにはこの現状どう映るだろうか。

第1回【有名私大に通う女子大生が“ドラッグの運び屋”に堕ちるまで…「タンポンよりも少し太い“ブツ”をえずきながら丸呑みしたんです」】では、姉思いの女子大生が“運び屋”を強いられるまでの経緯を報じている。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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