「そして誰もいなくなった」を彷彿 秋ドラマのダークホース、「良いこと悪いこと」の“考察”が止まらない

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49歳以下で2位

 秋ドラマが始まる前には口の端にも上らなかったドラマが、若者の間を中心に人気を集めている。日本テレビ「良いこと悪いこと」(土曜午後9時)である。小学校の卒業から22年後、同級生が次々と殺されるというストーリーだ。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 まず秋ドラマの視聴率ベスト5を見てみたい。

(1)テレビ朝日「相棒」個人5.6%(世帯9.5%)
(2)TBS「日曜劇場 ザ・ロイヤルファミリー」個人5.5%(世帯9.0%)
(3)テレ朝「ちょっとだけエスパー」個人3.7%(世帯6.3%)
(4)フジテレビ「絶対零度~情報犯罪緊急捜査」個人3.3%(世帯5.8%)
(5)「良いこと悪いこと」個人3.0%(世帯5.1%)。
※10月27~11月2日、関東地区、ビデオリサーチ調べ

 これが、49歳以下の個人視聴率(コア)では、「良いこと悪いこと」が2位に跳ね上がる。1位は「ザ・ロイヤルファミリー」。この視聴傾向がほぼ定着している。

 主演は2人。塗装店主・高木将役の間宮祥太朗(32)と週刊誌記者・猿橋園子役の新木優子(31)である。助演も含め、ビッグネームは出演していない。脚本を書いているのも新進のガク カワサキ氏(33)。大物出演者、大物作家を売り物にする他局とは対象的だ。

 物語は公立小学校の同窓会から始まった。同級生が勢揃いするのは卒業以来、22年ぶり。全員、34歳になっていた。

 皆一様に笑顔を浮かべ、再会を喜びあった。だが「週刊アポロ」の記者になっていた猿橋だけは表情が硬い。小6のとき、凄絶ないじめを受けていたからである。

 小6の園子は真っ暗な運動用具室に閉じ込められた。大声で「助けてください!」と叫び続けたが、誰も相手にしてくれない。それどころか外から戸を激しく蹴られた。何度も何度も。

 これにより園子は閉所恐怖症になってしまい、今もエレベーターに乗れない。ほかにも酷いいじめを受けた。濡れ衣で泥棒扱いされたこともある。いじめたのは男女6人の仲良しグループだった。

 子供はときに大人より残酷だ。このドラマはそれを冷徹に描いている。ほかの大半のドラマと違い、子供を天使扱いしない。そこが見どころの1つだ。ドラマ側も小6当時の描写を売り物にしようとしているらしく、回想シーンが異例なほどに長い。

 同窓会では卒業前に埋めたタイムカプセルが掘り起こされた。中に入れてあった卒業アルバムを取り出すと、個人の顔写真のうち、園子をいじめた6人の部分だけ黒く塗り潰されていた。これがサインだった。

 その日の夜、小6のときにはひんちゃんと呼ばれていた薬剤師の武田敏生(水川かたまり)が殺された。何者かにマンションの上階から突き落とされた。あとから気づくことだが、武田は6人が仲間のことを歌った替え歌「森のくまさん」で真っ先に登場する。

 正しい歌詞の冒頭は「あるひ もりのなか」。だが、6人は「あるひんちゃん」と替えていた。アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を彷彿させる。「そして――」ではマザーグースの童謡「10人のインディアン」の通りに10人が殺された。

 小6のときとの因縁はこれにとどまらなかった。武田自身が小6のときに描いた絵と殺され方が符合していた。絵のテーマは将来の夢。絵の武田は空を飛んでいた。殺されるときも空を飛ぶことになった。

 次に狙われたのはカンタローこと居酒屋店主の桜井幹太(工藤阿須加)。自分の店に火が付けられた。桜井は救助されたものの、入院中の病院で拉致される。そして全身に火を放たれ、焼死した。桜井は替え歌の2番目に出てくる。殺人は順番通りだ。小6時の夢の絵は消防士。火を消す職業だった。

 犯人は普通に考えたら、いじめの被害者・園子だ。動機はいじめの復讐。しかし、園子にはアリバイがある。復讐をするつもりもない。それをやったら、自分もいじめっ子たちと同じ悪い人間になってしまうと考えていた。園子は高木を誘い、犯人捜しを始める。高木は小6のとき、キングと呼ばれていた。リーダー格だった。

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