「そして誰もいなくなった」を彷彿 秋ドラマのダークホース、「良いこと悪いこと」の“考察”が止まらない

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

子供を冷徹に描く

 いわゆる考察ドラマである。もっとも、頭の中を空っぽにして観ても面白い。物語性が強いからだ。小6の子供を現実的に捉えているところもそうだが、「小学校卒業からの22年とはどんな意味を持つのか?」などを考えさせるエピソードが盛り込まれている。

 たとえば、元学級委員長の小林紗季(藤間爽子)は小6当時、典型的な優等生だった。現在は区民事務所に勤めている。同窓会の2次会ではタバコを吸った。目の前にいた高木が驚くと、紗季は「みんな変わるわよ」とやや不貞腐れたようにつぶやく。確かにそうだ。しかし驚いた高木の気持ちも分かる。小学校卒業から22年も過ぎたら、変わったって不思議ではない。しかし、人は過去のイメージを引きずりがちだ。

 ほかにも物語性を強めている要素がある。「34歳とは何か」を考えさせるところ。人生はまだ先が長いが、そう若いとは言えない微妙な年齢である。

 紗季は絵に国会議員になる夢を描いた。だが、現実になっていない。どうやら日常に満足していないらしい。自分の将来が薄ぼんやりと見えてしまうのも34歳ぐらいだろう。

 ちょんまげと呼ばれていた羽立太輔(森優作)も6人の仲間の1人。仲間に加わりたくて園子のいじめの輪に入った。卑劣な行為だが、気持ちは分からなくもない。子供に慈愛の心を求めるのは難しい。このドラマは子供の心理描写が巧みだ。

 今の羽立は引きこもり。そのくせ同級生の動向には人一倍詳しい。

 パソコンで調べているのだ。30代中盤は同級生の動向が気になる最後の世代かも知れない。それより上の世代になると、同級生のことを必要以上に気にしたり、自分と比べたりすることが無意味であることを痛感するようになる。

 ニコちゃんことクラブホステスの中島笑美(松井玲奈)も6人のうちの1人。やはり殺された。何者かに歩道から車道に突き飛ばされ、そのままトラックにぶつかり、轢死した。替え歌には3番目に出てくる。笑美の絵には「アイドルになる」という夢が描かれていた。死の前にはクラブのステージでアイドルのように踊っていた。

 気になる点は、まず米国のアプリ開発会社社長でターボーこと小山隆弘(森本慎太郎)の存在。やはり6人中の1人だが、中学はほかの5人と違って公立中には行かず、私立中に進んだ。受験が発端となって親友だった高木とは絶交した。小山は私立中に行って良かった思っているのか。

 小山はその後、米国に行く。そのまま同国に留まっている。日本に帰りたくない事情があるのか。また、小山は替え歌の4番目に登場し、既に襲われた。頭上から厚手の板ガラスが落下してきた。それを高木が救った。焼け死んだ幹太は二度襲われたが、小山はもう安全圏に入ったのか。

 まだある。高木と小山は6人以外にもう1人、遊びの場にいたことを思い出す。誰なのかは記憶にない。このドラマは22年間の空白を巧みに利用している。

 園子を運動用具室に閉じ込めた張本人もよく分からない。園子が閉じ込められたとき、6人はやや離れた場所にいたのだ。委員長こと紗季の姿が現場の近くにいたように見えたが、どうなのか。

次ページ:新木が浮上するか

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。