冬山ハイキング中に忽然と消えた幼馴染 同行者は「途中で帰った」と言い張るが…集合写真に写った“黒い影”が意味するものは【川奈まり子の百物語】

  • ブックマーク

消えたAくん

 即座に既読がついて、電話が掛かってきた。

「病院にいるの? 和朗くん、やっぱり、だいぶ具合が悪かったんだね」

「やっぱり? やっぱりって何だよ?」

「疲れたって言って、陣馬山で抜けて帰っちゃったじゃないか」

「ちょっと待て! それはAくんだろう?」

「ええっと……Aくんって誰?」

 このときの会話で、現在の彼らにとって、「Aは最初から存在しなかった」ことが明らかになった。

 和朗さんの記憶では、途中で抜けて帰ったのはAだった。

 Aが消えたのは高尾山を下山したときで、それについて同級生たちと話しており、そのとき彼らは「Aが陣馬山で抜けた」と言っていたではないか……。

 しかし、今あらためて彼らから話を聞いてみると、陣馬山で下山したのは和朗さん自身であって、Aについては会ったことはおろか名前すら聞いたことがないというのである。

「僕たちは予定どおり高尾山まで踏破して、温浴施設で小一時間過ごして、今は居酒屋にいる。もうすぐ帰るよ」

「途中で休み休み歩いたせいか、陣馬山の登り口から高尾山の麓まで6時間以上かかっちゃったよ」

 和朗さんがスマホの時計をあらためて見ると、時刻は18時を回っていた。

 ***

 幼馴染のA、大学の同級生たちと楽しくハイキングしていたはずなのに……記憶がおかしい。Aはどこに……。【記事後編 】では、和朗さんとAのその後に迫る。

川奈まり子(かわな まりこ)
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。