冬山ハイキング中に忽然と消えた幼馴染 同行者は「途中で帰った」と言い張るが…集合写真に写った“黒い影”が意味するものは【川奈まり子の百物語】

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【前後編の前編/後編を読む】一緒にいたはずの幼馴染は「ずっと植物状態」だった? 大学生の記憶に残った“足音”と“青痣”の切なさ

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。今回は、大学生と幼馴染の身に起きた物語を紹介する。

 ***

 2019年12月28日は土曜日で、東京都郊外に住む当時20歳の大学生・和朗さん(仮名)はかねて予定していたハイキングのために早朝、自宅を出発した。

「行ってきます」

 母が玄関まで見送りに来た。

「気をつけてね。スマホは持った? 帰りは何時頃になるの? 体調は平気なの?」

 彼は違和感を覚えて、母の顔を振り返った。

 母はやたらと干渉してくるタイプではなく、むしろ放任気味だったのだ。ましてや彼は子どもの頃から人並み外れて頑健で、風邪も滅多にひかないたちだ。

 それなのに、母は今朝に限ってなぜか不安そうな表情だ。

「急に、どうしたの?」

 と彼は訊ねた。

「理由はないけど、なんとなく心配で……」

 母は悩ましげに答えた。

「大丈夫だよ。Aくんと駅で待ち合わせしているから、もう行くよ」

「Aくん、入院したって言ってなかったっけ」

 Aは幼稚園から高校まで同じ学校に通った近所の幼なじみだ。

 和朗さん以上に健康優良児だったAが夏風邪をこじらせて入院するに至り、周囲を驚かせたのが8月。10月半ばには退院して「来春まで大学を休んで療養に努めることにした」と知らせてきた。以来、たびたび彼とLINEで連絡を取り合っているが、Aは最近ではすっかり体力も戻り、時間を持て余しているようだった。

「あれ、言ってなかったっけ? Aくんなら、とっくに退院したよ! じゃあ……」

「遅くなりそうなら電話して。本当に気をつけてね」

 母は最後まで心配顔だった。

行方不明

 その日は全国的に冷え込んで、北海道から北陸にかけて降雪があり、東京圏も、天気こそ快晴だったが、最高気温は前日より3℃も下がって10℃前後と低かった。

 ハイキングの参加者はAと和朗さん、和朗さんと同じ大学の同級生2人だ。

 実は先月、Aを除く3人で、高尾山の麓のスパで温泉とサウナを愉しんだのだが、そのとき陣馬山から高尾山へ縦走するハイキングを思いつき、休学中で閑そうにしていたAを和朗さんが誘った次第である。

 陣馬山から高尾山までは約15kmで、「ハイキング初心者向けのコース」としてネットで紹介され、スマホで検索したら上位に出てきたのである。

 終点は高尾山の麓だから、前回に利用した温浴施設で再び温泉とサウナを堪能して締め括るというのは、たいへん良いアイデアだと思われた。

 ところが……。

「ゲッ! これって“道”じゃなくない? ちょっとキツすぎん?」

 初心者向けのはずが、思いのほか本格的な山歩きになってしまったのだ。

「来ちゃったものは仕方ないから、急ごう。……で、さっさとサウナに入ろうぜ!」

 励まし合いつつ歩き、約7時間後には高尾山を下りることに成功したものの、そのときには全員ヘトヘトになっていた。

 しかも、件の温浴施設に到着してみたら、Aの姿が見当たらない。

「大変だ、Aくんがいない! 僕、ちょっと探してくるから、先に入っていて!」

 和朗さんは、2人を温浴施設に行かせ、Aを探すために道を戻ろうとした。

 ところが、そんな彼を同級生たちが呼びとめた。

「和朗くん、しっかりしろ。Aくんは途中で帰ったじゃないか」

「そうだよ。陣馬山の白馬のところで別れたよ。そろそろ家に戻っている頃だ」

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