冬山ハイキング中に忽然と消えた幼馴染 同行者は「途中で帰った」と言い張るが…集合写真に写った“黒い影”が意味するものは【川奈まり子の百物語】
いやな胸さわぎ
いわく、Aは陣馬山高原の名所である「白馬のモニュメント」前で記念撮影をした後、下山したらしいのだが……和朗さんの記憶では、Aはその後も一緒にいたはずだった。
「そんなわけがない。さっきまで、そこにいただろう?」
和朗さんは、どうしても納得がいかなかった。
そこでAにLINEを送ろうとして、奇妙なことに気がついた。
AのLINEアカウントが見つからないのだ。
「あれ? 間違って削除しちゃったのかな……」
スマホを弄っていると、彼と同じく傍らでスマホの画面を操作していた同級生がアッと声を上げた。
振り向くと、「この写真おかしくない?」と言って、スマホの画面をこちらに向けた。
見れば、白馬のモニュメントの前で撮った写真が表示されていた。
大学の仲間2人がくっついて並び、彼らと和朗さんに挟まれてAが立っている。
「わからないな。どこが変なの?」
「よく見て。Aくんだけ黒っぽくてピンボケだよ。こんなふうに写ることってあるかな」
たしかに、言われてみればそのとおりで、Aの姿だけが暗く翳って、輪郭も水に滲んだかのように曖昧になっていた。
和朗さんは急に胸を衝かれたように感じて、居ても立っても居られないほど気が揉めてきた。
「なんだかAくんが心配だ。僕、先に帰るよ。せっかく来たんだから2人はゆっくりして行きな」
「そうか。気になるから、何かわかったら連絡して」
2人と別れて和朗さんは帰路に就いた。
目覚め
高尾駅から中央線の上りに乗って……和朗さんはいつしか居眠りしていたようだ。
ハッと気づくと、白い天井が目に飛び込んできた。
「和朗! 和朗! すみません! 息子が目を覚ましました!」
すぐそばで母の声がした。
――ここはどこだ?
彼は混乱しながら辺りを見回そうとしたが、人工呼吸器に邪魔をされて思うようにいかなかった。
呼吸器が装着され、点滴の管に繋がれて、力なく横たわっている我と我が身の状況が、じわじわと把握できてくるのと同時に、医師や看護師に取り囲まれて、周囲が慌ただしくなってきた。
「どこか痛いところはありませんか? お名前は? ここがどこだかわかりますか?」
パニックになりそうな気持を必死で抑えて、彼は医師の質問に答えた。
間もなく担当医と母から説明を受けて、彼は自分の身に何が起きたのか、おおよそのことを理解した。
彼は自宅を出発して3~4時間あまり後、おそらく午前10時頃にAの家の玄関先で倒れているところを、Aの家人に発見されたのであった。
靴が泥で汚れていること以外は、朝、家を出たときの姿のままで、怪我もなさそうだったが、名前を呼んでも肩を揺すっても目を覚まさないので、救急車が呼ばれた。
「さっきまでAくんのお母さんもいたのよ」
そう言いながら、母はハンカチで涙を拭っていた。泣くほど心配をかけてしまったか……と思う間もなく、母の次の言葉で、彼は心の底から驚くはめになった。
「Aくん、植物状態なんですって? どうして、もう退院したなんて嘘をついたの?」
これを聞いて和朗さんは再び混乱してしまった。だが、しばらくして落ち着きを取り戻すと、スマホでハイキングの仲間にLINEして、現在の自分の状態とすぐに確認したいことがある旨を伝えた。
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