「“元気な遺族”の姿を犯人に見せて、“ざまあみろ”って言いたかった」 【名古屋主婦殺害】夫が26年間、人前で涙を見せなかった理由

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「特別扱いされたくない」

 そう航平さんが思えたのはやはり、悟さんが「特別扱いされたくない」という一心で子育てと仕事に専念してきたからだ。悟さんが語る。

「こんなことで挫けていたら奈美子の供養にならないんです。その死を無駄にしないためには、遺族が明るく元気よく生きることかと。だから残された人間が転げ落ちるように職場を辞めたり、子供が非行に走るような遺族にはなりたくなかった。妻を殺され、自分たちまでもがダメになってしまったら元も子もないですよね? そんな理不尽なことはありません」

 だから人前では涙を見せず、堂々と生きてきたのだ。昨年11月には航平さんが、奈美子さんの親友の娘と結婚し、喜びに浸った。ちょうどその頃に発生から25年の命日を迎え、情報提供を求めるちらし配りを行った際、悟さんは報道陣の囲み取材で、こう訴えていた。

「犯人は絶対に報道を気にしていると思うんです。そこで泣いたりしたら犯人が喜ぶ。だから元気な姿を見せてざまあみろと。奈美子を殺すことによって私たち家族が崩壊する、気持ちが沈んで立ち直れないような状況に追い込みたいと思ったのなら、絶対そんなことにはならない。そんな思いで親子で頑張ってきました。アパートには犯人のDNAが残っているので、いつ逮捕されるかわからないという緊張感は与え続けたい」

 そして1年後に犯人が逮捕された。

 ざまあみろ。

 これで涙をこらえる理由もなくなった。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3~5月にはウクライナで戦地をルポした。

デイリー新潮編集部

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