「移植1回で約450万」「数千万円かけても妊娠しない」 それでも「卵子提供」で“台湾”に渡る夫婦が後を絶たない深刻な理由
不妊治療のなかでも「最後の砦」として注目される「卵子提供」。先ごろ、基準の厳しい日本での卵子提供を実質的に緩和する「特定生殖補助医療法案」が参院に提出され、不妊に悩む患者たちは沸き立った。しかし、対象夫婦が法律婚に限定されるなどとして野党から猛反発を受け、最終的に廃案となった。近年、国内では卵子提供が難しいとあって台湾へ渡航する患者が後を絶たず、その費用負担の大きさが問題視されている。この事態を受けて、セントマザー産婦人科医院の田中温氏をはじめとした有志の医師たちは新たな団体「CREMED(医療としての卵子提供を推進する生殖医療専門医の会)」を立ち上げたという。田中氏に団体を立ち上げた意図や日本における「卵子提供」の問題点を聞いた。
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日本は世界でも有数の「不妊治療大国」です。例えば、日本における体外受精の実施数は年間で約60万件。カップル当たりの件数でみると、アメリカの2倍、欧州諸国を全部合わせた件数よりも多い。件数に応じて体外受精の技術も世界トップレベルです。
それでは成功率はきっとトップクラスだと期待されますが、実際には中間程度と低くなっています。この原因は日本は高度生殖医療を受ける患者さんの平均年齢が約40歳で、世界で最も高年齢で10年程遅くなっている点であります。この結果、日本は体外受精の技術と件数は世界トップにもかかわらず成功率は低下しているのが現状です。
日本の生殖医療では、患者さんの平均年齢が40歳以上と高齢であることが多く、第三者から卵子の提供を受ける「卵子提供」は、“体外受精が成功しない場合”や、“染色体異常が原因と考えられる卵巣機能不全”、“遺伝子異常が原因と考えられる先天性の若年性卵巣機能不全”、さらには“重症子宮内膜症や卵巣摘出などで卵子をつくることができない”といった方にとって、まさに不妊治療の「最後の砦」です。
現在、「卵子提供」を受ける方法としては大きく2つあり、ひとつは不妊治療専門のクリニックによって結成されたJISART(日本生殖補助医療標準化機関)のガイドラインに則り、認定施設で提供を受ける方法。もう一つは国外で卵子提供を受ける方法です。
つまり、国内で卵子提供を受けようと思ったら、実質的にJISARTの基準に従わなければならない。しかしJISARTの卵子提供の条件は非常に厳しいのです。卵子提供者は自分で見つけて連れてこなければならないうえ、提供者の個人情報の全面開示が求められます。
その結果、卵子提供者は見つからず、ほとんどが姉妹からの提供となります。卵子提供を受ける方は年齢を重ねている場合が多いですから必然的に姉妹も年を重ねていて、妊娠の可能性が高い若い卵子を提供してもらうことは難しい。重ねて、JISARTの基準では匿名で卵子が提供できない以上、子どもたちなどに自身の情報の全てが公開される必須条件があります。これは提供する側にとってかなりの心理的な障壁になります。
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