「移植1回で約450万」「数千万円かけても妊娠しない」 それでも「卵子提供」で“台湾”に渡る夫婦が後を絶たない深刻な理由

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「卵子」を求めて台湾に

 JISARTの倫理委員会が承認した卵子提供の詳細ですが、2024年の1年間の実施数は13件、出産症例数は8例。2007年から2025年9月末までを合計しても実施数は132件、出産症例数は73例に過ぎません。当院でもJISARTを通した卵子提供で不妊治療を行ってきましたが、15年間でたった43人しか生まれていません。

 卵子提供で不妊治療をしたいと言っても、提供者を見つけてこられるのはおおよそ30人に1人。日本で提供者を見つけられなかった人たちのほとんどは台湾に渡航します。

 台湾では卵子提供者は完全匿名で、日本の夫婦の戸籍謄本があればそれだけで卵子提供を受けられる。それもあって卵子提供のために台湾に渡航する人は年間約1000人にも上ります。日本では年間数人~数十人ですが、台湾では年間約1000人という有様です。

 台湾での卵子提供では2回の渡航が必要になります。渡航1回目は夫婦で病院に足を運んで話を聞き、ご主人はそこで精子を凍結して帰国する。病院は卵子提供者を探して、ご主人の精子と受精させたものを凍結する。それで奥様に「良い胚ができましたから移植します」と連絡が入り、日本国内での移植前のホルモン調整などを経て、渡航2回目で受精卵を子宮に移植するという流れです。

 台湾での卵子提供は年々費用負担が増大しており、今は1回の移植で約450万円かかります。さらに1回の移植で妊娠するとは限らず2回3回と移植を重ねて初めて妊娠するケースが多く、総額で1000万円以上かかるのが普通です。JISARTの承認を通って日本で卵子提供を受ければ100万円程度でできるにもかかわらず、です。これでは国内で卵子提供を受けられる人と受けられない人であまりに不平等でしょう。

 こうした問題もあり、今年2月に提案された「特定生殖補助医療法案」には期待を寄せていました。この法案では、卵子ドナーの情報開示を身長・血液型・年齢などに限ることなどが定められていて、国外に出ることなく国内で卵子提供が受けやすくなるのではないかと思っていたのです。私自身、1年ぐらい前から患者さんに「もう台湾に行かなくても大丈夫だよ」と話していたのですが、結局廃案になってしまいました。

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