効果を高めるワクチン接種の時間帯は? 薬は「いつ飲みむか」で効果が変わる!
「朝1回」か「夜1回」か
例えば、「朝1回服用してください」として処方された逆流性食道炎の薬を、しっかりと朝服用しているのになかなか症状が改善しないという人はいないでしょうか? その原因としては、時間治療の概念が抜け落ちている可能性が考えられます。
なぜなら、逆流性食道炎は就寝中などに胃酸などが逆流して食道の粘膜に炎症が起こる疾患であり、胃酸は副交感神経(自律神経のブレーキの役割)が優位になる夜間に多く分泌されるため、「朝1回」ではなく「夜1回」服用した方が症状の緩和が期待されるからです。
なお製薬会社は、薬の開発時にその薬の有効性や安全性を確かめる臨床試験は行うものの、その際、厚生労働省から求められないこともあり、投与時間帯による効果などの比較をする臨床試験は行わないことがほとんどというのが現実です。
また、日本には4300万人の高血圧患者がいるとされていますが、夜間の血圧が十分下がらない(ノンディッパー型血圧日内リズムと言います)状態が続くと心筋梗塞などになりやすくなってしまいます。従って、ノンディッパー型の高血圧患者は朝や昼よりも夕食後に降圧剤を服用することで、夜間の血圧をほどよく下げられ、心筋梗塞などのリスクを減らすことが可能になります。
さらに、血液は早朝に固まりやすいため、心筋梗塞や脳梗塞は早朝に発症しやすい傾向があります。この生体リズムに基づけば、血液を固まりにくくするアスピリンなどの薬をやはり夕食後に服用すると、早朝の血栓を予防する効果の増大が期待できます。
ワクチンの接種は?
夜間、夕食後に服用することで効果の高まりが望める薬がある一方で、ワクチンの接種は異なります。
ワクチンは、体の中に数百あるリンパ節に集まってくるリンパ球と遭遇することで抗体を作り出します。そのリンパ球は、体のいろいろなところを回りながら、日中にはリンパ節に集まりやすいことが分かっています。そのため、午前中にワクチンを接種した方が、リンパ節に集まったリンパ球と遭遇できる量が増え、抗体も多く産出され、効果も高まるのです。実際、新型コロナワクチンを午前(9~10時)に接種した場合と午後(0~1時)に接種した場合では、前者の方が3週間後の血中抗体価は高いことが明らかになっています。
また、胃や十二指腸の粘膜が胃酸などによって傷つく消化性潰瘍の治療に関しては、大きく分けてH2ブロッカーとプロトンポンプインヒビターという二つの治療薬が用いられるのですが、前者のカテゴリーの薬は夕食後に、後者のカテゴリーの薬は朝に投与した方が、効果が長く続くことが分かっています。
他にも、抗菌薬の一つであるアミノグリコシド系抗菌薬は、夜間に比べて約1.5倍、腎臓の働きが活発な日中の方が、尿として排出されやすく体にたまりにくいので、夜ではなく日中の投与が望まれます。
尿として排出されてしまったら薬の効果が減ってしまうのではないか。そう疑問を覚えた人もいるかもしれません。血中に入ったアミノグリコシド系抗菌薬は全身に運ばれ、細菌に接触して効果を発揮します。一方、正常な細胞にも接触して有害反応を起こします。従って、薬の有害反応のリスクを減らすために“体内にとどまりにくい”日中の投与が推奨されるのです。
このように、時間治療は「効果の増大」だけではなく「有害反応の低減」、つまり有効性と安全性の双方から臨床の現場で生かされている知見なのです。
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