バスは減便、クマ大暴れ… 過疎化する地方の“切り札”「コンパクトシティ構想」は実現不可能な夢物語だ
地方で起きている路線バスの大規模な廃線、参院選で争点化された「外国人問題」、そして各地で猛威をふるうクマによる人的被害…。これらに共通するキーワードが「人口減少」と「地方の過疎化」だ。国や国土交通省は地方都市の人口減少の解決策として、居住地や都市機能を特定の地域に集約させる「コンパクトシティ構想」を掲げているが、ライターの吉川祐介氏は長年「限界ニュータウン」について取材を続けてきた経験から、「都市計画によって集住を進める施策は実現不可能な夢物語」だと指摘する。同氏のレポートをお届けする。
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【写真を見る】結局1戸の住居も建つことなく放置され… 約50年前に新聞掲載された現在の千葉県・香取市山倉にある分譲地の広告
高度成長期以降、無計画に乱開発された「投機型分譲地」
先日、2025年10月23日付の朝日新聞(オンライン)において、静岡県の南伊豆町における、下水道処理施設(漁業集落排水)から戸別の合併処理浄化槽への切替事業が報じられた。
「集落排水」とは、農漁村における環境整備事業の一環で、排水処理の効率化を目的に全国各地で整備されてきた簡易的な下水道網である。ところが人口減・税収減が続く地方部においては、そんな集落単位の下水道設備が逆にコスト面で非効率なお荷物と化してしまい、より低コストで維持できる個別の合併浄化槽への切り替えが行われたものだ。
近年は小規模自治体において、道路、上下水道、公共交通等の生活インフラのほか、図書館や小中学校といった教育施設に至るまで、人口増加期の水準に合わせて設けられたインフラ設備の維持費用が財政を圧迫する事例が多くなった。
都市部から遠く離れた山村においては、「過疎」という言葉が広く使われ始めた高度成長期の時代から続いてきた懸案なのだが、人口減少時代に突入した今、ベッドタウンとして開発された都市郊外部にも同様の事態が押し寄せている。
しかし、インフラ設備は自治体の判断によってある程度は将来の方向性を定めることができるが、過剰なインフラを生み出す主因となった都市構造そのものについては、昔も今も民間任せであり、地元行政の思惑が及ぶところではない。
一定の財政基盤がある主要都市であれば、官民協働の再開発事業が行われることはあるが、インフラの維持にも悩むような自治体は、街の構造を一変させられるほどの再開発を行う資力を持ち合わせていないところがほとんどだ。
筆者は主に千葉県郊外の住宅分譲地、それも一般的なベッドタウンというよりは、高度成長期以降、民間企業によって無計画に乱開発された「投機型分譲地」(限界ニュータウン)を取材テーマにしている。
名目上は「住宅分譲地」「ベッドタウン」として開発・分譲されたものだが、その実態は投資商品の一種で、所有者の多くは、自ら居住する意思もなく、ただ地価の上昇を見込んで、株や預金と同じ感覚で購入していたものだ。
その土地ブームの時代からおよそ半世紀が経過し、実際に家が建つこともなく、不在地主によって漫然と放置され続けてきたこれらの分譲地は、あまりに交通不便なために新築用地としての需要は皆無で、今は坪数千円で売れれば御の字というレベルまで価格が暴落している。
処分もままならず、不本意に相続して悩みの種となっている人も少なくない。総区画数の半数以上が空き地のままという住宅地はざらで、ひどいところでは9割以上が空き地の「住宅団地」も存在する。
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