Sora2登場でAIコンテンツが広まるほど価値が上がる人間の「声」…いま「ポッドキャスト」というビジネスモデルが注目を集める理由

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マネタイズのポイント

 最近、ポッドキャストのビジネスモデルについて、よく質問を受けます。「音声を配信してどうやってマネタイズするのか」と。収益化する方法は有料配信にしたり、広告を入れるなど、いくつかありますが、もし、企業がポッドキャストで収益化を考えるのであれば、ポッドキャストそのものをマネタイズのポイントにしない方が、採算は合いやすいかもしれません。

 多くの人から少額をもらうモデルではなく、セミナーや単価の高いBtoBのビジネスなど、一部の熱心なファンからまとまった金額で受注できるようなビジネスの方が、ポッドキャストの特性とは合っていると思います。

 もしポッドキャストそのもので収益化を図るのであれば、有料課金(サブスクリプション)は一つの方法ですが、最近では、Spotifyが海外で、再生回数に応じた広告収益の分配を始めています。これが単純な再生数だけを指標にすると、ひたすら注目を集めたものが勝つ「劣化版YouTube」のようになってしまう懸念もあるので、滞在時間など、何か別のロジックで広告費が分配されるモデルが生まれてほしいと願っています。

 最後に、AIとポッドキャストの関係について、私自身の経験をお話しさせてください。先日、私の声をAIで再現し、ナレーションを「AI野村」にして「News Connect」を配信するという試みを行いました。これは、番組の質をさらに高めるため、プロデューサーである私の時間を、文章の中身を作ることに集中させ、ナレーション読みをする時間は別のリソースに振り向けるのが目的でした。

 特に平日版は配信する「情報の価値」が重要なので、私の声がAIに代わっても体験価値はそれほど落ちないのではないか、という仮説を持っていたんです。

 しかし、配信してみると、リスナーの方々からの反応は、好意的な意見が3~4割、否定的な意見が6~7割といったところでした。特に、長年聞いてくださっていたリスナーさんから、「気持ち悪くて聞けない」「生身の野村さんの声が聞きたい」という、私が想像していた以上に強烈な拒否反応が寄せられたのです。そのコメントを見て、私は考えを改めました。

生身の人間を受け取っていた

 当初、この「AIの声が気持ち悪い」という問題は、技術的なものだと思っていました。技術が進歩し、より人間に近づけば解決するだろうと。実際、「AI野村」はテストを繰り返していて、配信前には完璧とはいえないまでも、クオリティの高いものになっていたと感じていました。しかし、上記の拒否反応を見るに、どうもこれはもっと本質的な問題なのではないかと思い直したのです。

 つまり、リスナーの皆さんは、平日毎朝、単なる情報だけではなく、「生身の人間」を受け取ってくださっていた。

 それがAIに代わってしまったことに対して、拒否反応を示された。これは単純に、私が番組の価値の源泉がどこにあるのかを見誤っていたのだと判断し、「AI野村」は1日で撤回しました。番組の価値は、もちろん情報にもありますが、それ以上に「生身の人間」が持つ価値が、私が想像していたよりもはるかに大きかったのです。

 この経験から、音声という領域は、考えていた以上に「人間が喋ること」自体に意味があるのかもしれないと感じるようになりました。

 AIコンテンツが世に広まれば広まるほど、人間と人間が触れ合いたいという欲求は残り続け、その受け皿として、音声という領域の価値はむしろ増していくのかもしれない。

 そんなことを、今は考えています。

野村高文(のむら・たかふみ)/Podcast Studio Chronicle 代表

Podcastプロデューサー・編集者。東京大学文学部卒。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、ニューズピックスを経て、2022年にChronicleを設立。制作した音声番組「a scope」「経営中毒」で、JAPAN PODCAST AWARDS ベストナレッジ賞を2年連続受賞。その他の制作番組に「News Connect」「みんなのメンタールーム」など。TBS Podcast「東京ビジネスハブ」メインMC。著書に『視点という教養』(深井龍之介氏との共著)など。2025年10月にPodcast制作に関する初の単著『プロ目線のPodcastのつくり方』を出版。

X(Twitter)アカウント https://x.com/nmrtkfm
制作番組一覧 https://chronicle-inc.net/

デイリー新潮編集部

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