Sora2登場でAIコンテンツが広まるほど価値が上がる人間の「声」…いま「ポッドキャスト」というビジネスモデルが注目を集める理由
人々の注意を引き付けるために、1秒が争奪される時代――。SNSが浸透することで「アテンション・エコノミー」への警戒感が強まる中、「じっくり、ゆっくり情報を摂取する」ことはできなくなりつつある。一方、長いコンテンツを楽しむメディアとして、俄に注目されているのが、音声プラットフォームのポッドキャストである。フォロワー12万人を誇る「News Connect」を筆頭に様々な番組を手掛けるPodcast Studio Chronicle代表であり、プロデューサー・編集者でもある野村高文氏が初の単著となる『プロ目線のPodcastのつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓した。
ショート動画全盛の時代、さらにSora2の登場で爆発的に動画コンテンツが普及していく中で、なぜいま「音声」なのか。野村氏へのインタビューで解き明かす。
注目を集めるポッドキャスト
そもそもポッドキャストとはどんなプラットフォームでしょうか。「ラジオとは何が違うのですか?」と、初めてお会いする方に尋ねられることもあります。
ポッドキャストとはインターネット上で聞ける音声コンテンツで、特にトークを主体にするものです。その歴史は意外に古くて2004年にアメリカのコラムニストが生み出した造語と言われています。
ラジオとの大きな違いとして、まず誰でも配信できる点が挙げられます。ラジオは総務省から免許を得たラジオ局が特定の電波を使って放送する一方、ポッドキャストはインターネット上で基本的に誰でも配信できます。
そしてもう一つ、ラジオとの大きな違いが「アーカイブ性」です。
テレビ番組とYouTubeの関係によくたとえられますが、ポッドキャストはいつでも好きな時に過去の放送を聞くことができます。誰でも配信できて、いつでも聞ける。最近、個人であれ法人であれ、情報発信をしようと考えたとき、ポッドキャストはブログやnoteのようなテキスト、YouTubeなどの動画に次ぐ「第3のオプション」として注目が集まっています。
では、なぜテキストでも動画でもなく、ポッドキャストなのでしょうか。そこには、音声メディアならではの強みがいくつかあります。
一つ目は、「長い話を届けやすい」という特徴です。記事や動画では、見出しで読者や視聴者を引きつけても、最後まで読んだり、見たりしてくれる確率は低いのが現実です。
例えば30分のYouTube動画なら、最後まで見てくれる率は良くても2割でしょう。大半は最初の数分で一気に離脱してしまうのが典型的なパターンです。しかしポッドキャストの場合、30分のトークコンテンツでも、7~8割の方が普通に最後まで残ってくれます。リスナーがそれだけ長く滞在してくれる。つまり、長く込み入った話を届けるのに向いているのです。
二つ目の特徴は、「継続して聞いてもらいやすい」点です。つまり、あるエピソードを聞いたリスナーが、他のエピソードも聞いてくれる確率が高い。新しいエピソードが配信されるたびに、過去のエピソードも聞いてくれる確率が高いということです。
三つ目は、少し不思議なことですが、「発信者の人間性が伝わりやすい」という点です。
ある心理学の実験では、人は「視覚情報+聴覚情報」の場合よりも、「聴覚情報だけ」の場合の方が、相手の感情を正確に読み取れるという結果が出ています。
視覚という一つの感覚が遮断されることで、逆に耳からの情報に集中するのかもしれません。
「長い時間聞いてくれる」「繰り返し聞いてくれる」「人間性が伝わりやすい」。
この3点を鑑みると、自分のことをたくさんの人に知ってほしいという目的であれば記事や動画の方が向いているかもしれませんが、「一定数の方々と深い関係を築きたい」という方にとっては、ポッドキャストは非常に有効なツールになりえるのです。最近では、経営者の方や一部の政治家の方がポッドキャストを始めているのは、そうした特性を知ってのことでしょう。
[1/3ページ]



