Sora2登場でAIコンテンツが広まるほど価値が上がる人間の「声」…いま「ポッドキャスト」というビジネスモデルが注目を集める理由
「お客さん、ラジオに出てますよね?」
私がポッドキャストに注目し始めたのには、きっかけがあります。
2015年頃、当時NewsPicksの編集者だった私はTBSラジオの「荒川強啓 デイ・キャッチ!」という番組に、コメンテーターとして定期的に出演させていただく機会がありました。
ある時、タクシーに乗っていたら、運転手さんから「お客さん、ラジオに出てますよね?」と声をかけられたのです。
私が出演していたのは、人気番組ではあるものの、一つのコーナーに過ぎません。そんなに覚えられているとは思ってもいなかったので、正直驚きました。どうやら、車内で私が同僚と話している声を聞いて、「あれ、この人の声、聞いたことある」と思われたようなのです。その時、「音声って不思議だな、記憶に残りやすいのかな」と感じました。
その後、音声プラットフォームのVoicyで個人配信を始めると、聞かれている数はそれほど多くありませんでしたが、テキストの記事に比べて、明らかにコメントの熱量が高いことに気づきました。
そして、2019年頃から、NewsPicksにかけ合って社内副業として音声事業の立ち上げに挑戦させてもらうことになりました。会社員として数年間取り組んだ結果、この領域はもっと深めることができ、世の中に対して価値を発揮できるのではないかと感じ、独立起業に至ったのです。
朝日新聞社とマーケティング会社・オトナルが実施した「第5回ポッドキャスト国内利用実態調査」(2025年2月発表)によれば、日本で月に1回以上ポッドキャストを聴く人の割合は17.2%となっています。
これは、10年前のアメリカの水準だと言われています。それだけ、日本市場にはまだ可能性があるということです。
アメリカでは、大統領選挙でポッドキャストが多大な影響を及ぼすほど、有望なメディアになっており、トッププレイヤーの中には、配信者個人で数十億円を稼ぐような世界が実現している。市場の大きさが日本とは全く違うのです。
アメリカでここまで普及した理由としてよく言われるのは、日本以上に車社会であることが挙げられます。さらに、アメリカのテレビ番組には、カリスマ的なホストが自身の番組でゲストと語り合うトークショーのフォーマットが伝統的に多くありました。そのため、視聴者にはもともと、ホストとゲストの深い対話を聞くという習慣が根付いていた。
「新しい時間が生まれた」
こうした背景から、深い対話をしていくポッドキャストのフォーマットが流行りやすかったという側面もあるでしょう。では、文化も生活スタイルも違う日本で、これからアメリカのようにポッドキャスト市場が広がっていくには何が必要か。
一つは「ながら聴き」という習慣の価値を、私たち制作者側がもっと提案していくべきだと感じています。
現代人は皆、忙しい。
見るべきコンテンツが多すぎる中で、全くのゼロからインプットの時間を生み出せる数少ない方法が、音声を聞くことです。これまで習慣がなかった方にとっては、歩いている時間や家事をしている時間に耳から情報を得ることで、「新しい時間が生まれた」と感じるほどのインパクトがあるはずです。
この価値が広く伝わった時に、音声コンテンツはもっと広がっていくのだろうと感じています。
実は今、日本で広がる兆しが見えているのが「お笑い」のジャンルです。
Spotifyのランキング上位は、ほとんどがお笑い系のコンテンツで占められています。これはおそらく、深夜ラジオのノリ、深夜ラジオが持っていた価値が、ポッドキャストの世界に移植されているのだと思います。テレビでは見せない、リスナーに向けた親密な話を芸人さんがしてくれる。その価値にリスナーが集まっているのです。
お笑いと並んで、日本で伸びているもう一つのジャンルが「ニュース」。私たちが制作している「News Connect」も、ニュース系のポッドキャストです。現在、フォロワー数は約12万人になりました。
ニュースを手掛ける番組はたくさんありますが、「News Connect」では平日は5分、土日は長め、40分以上の尺で配信を行っています。
まず私たちは、平日に解説するニュースを「1日1つ」に限定しました。
その1つも、ただのニュースではなく「世界の潮流」、つまり私たちの世界がどちらに向かっているのかを象徴するようなニュースを選ぶことにしたのです。どこかの国で重要な選挙があったり、新しいテクノロジーが登場したりすることは、世界の潮流を変えうる可能性がある。そうしたニュースを優先して選ぶことで、世界のメガトレンドが把握できる、という「価値」を提供しています。
事実(ファクト)が世の中に溢れている中、それをどう解釈すればいいのか迷っている方が多い中で、一つの補助線を引いた情報を提示することが、リスナーの方に支持していただける理由の一つと思っています。平日は皆さんが忙しいことを想定し、5分で聴けるように「時短」を意識し、一方で、日曜日は比較的時間があると考え、国際政治・ビジネス・テクノロジーを横断的に解説する、40~50分ほどの少し長めの振り返り回を設けています。このメリハリも、リスナーの方々の支持を得ている要因かもしれません。
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